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F.リスト:ハンガリア狂詩曲第12番 嬰ハ短調

ホルヘ・ボレット(ピアノ)


1853年、リストがピアニストとしての全盛期と言われた42歳の頃に出版された、第1〜15番の中の1曲。

リストは、1839年と46年に訪れた生地ハンガリーのロマ達の間で歌われていた旋律を、民謡だと考えて15曲の狂詩曲を書いたようですが、

その後のハンガリー民謡研究の結果、厳密にはそうでなかったことが明らかにされています…。


これら15曲いずれもが、リストの卓抜なテクニックを誇示することを意図した作品であることは否定のしようがないと思いますし、

事実、華麗でスペクタクルな演奏が大多数を占めているように思いますが、

今日エントリーする第12番嬰ハ短調を弾くホルヘ・ボレットの演奏は、技巧をひけらかすこととは一線を画したもので、

特に前半部は、ハンガリーのロマの持つ民族的宿命のような情念が表出された、滋味深ささえ感じられる、見事な表現だと思います。


左手によって重々しく叩きつけられる特徴的な全打音による主題、

そして地底から湧き上がるようなトレモロ…。

冒頭部は、民族の宿命を髣髴させる、ただならぬ不穏さが漂います…。

孤独な寂寥感を湛えつつも、遥かな憧れを思わせるようなパッセージの後には、

言いしれぬ愛らしさが込められた、ジプシー風の舞曲へと続きます。

冒頭部の主題が再び湧き上がり、英雄的に歌われるパッセージは、

祖国への郷愁と誇りがひしひしと感じられる、素晴らしい演奏!


曲がきらびやかさを帯びて、親しみ易い後半部の主題が登場、

愛らしさを感じさせつつ、めくるめくラプソディックに展開されていきます。

最後に、冒頭の宿命を思わせる主題が登場しますが、それを打ち消すように華々しく終わります。


ボレットの残したハンガリア狂詩曲は、この12番だけとか…。

正直申し上げて、どの曲も似たりよったりと思っているのですが、

ここまで濃い内容を伴なった、感興溢れる演奏を聴くと、この1曲で十分だと、思ってしまいます!

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