最近聴いたCD

W.A.モーツァルト:
弦楽四重奏曲第15番 二短調 K.421

ハーゲン四重奏団


1783年、妻コンスタンツェとの間に第一子が誕生する時に作曲していたのが、二短調の弦楽四重奏曲K.421…。

とりわけ第3楽章は、妻の出産中に書かれたというエピソードが…!


どうしようもないどん底の状態にあっても、明るく透き通るような作品を書いたと言われるモーツァルト…。

逆に、人生最高の幸せな瞬間とも思える第一子誕生を控え、滅多に書かない短調作品を「何故?」とも思うのですが、

そこは天才作曲家、凡人には思いもよらないインスピレーションが湧きあがったのかもしれません…。

いずれにしても、奥深い悲しみを湛えた至高の作品を聴きながら、

モーツァルトの心の内を想像するのも、又一興かも…。


エントリーするのは、モーツァルトの時代のノンヴィブラート奏法を駆使したハーゲン四重奏団の演奏。

当初は、ふくよかさに欠けて、ぎすぎすした印象の響きに違和感を覚えたものでしたが、

最近は、個々の楽器の表現が鮮明に聴き取れるハーゲンSQの演奏に、興趣を覚えることが多くなってきました。

K.421は、その代表的なものと感じています。


【第1楽章:Allegro moderate】

物寂しく、すすり泣くように開始される冒頭部ですが、

次第に悲しみは昂じて、号泣に至ります。

個々の楽器の阿鼻叫喚が、古典という則の中で表現された、見事な演奏だと思います!


【第2楽章:Andante】

4つの楽章の中で唯一の長調ですが、寂寥とした心のうちに諦観すら感じられます。秋色が漂い始めた今の時期にシンクロした、心に浸み入る演奏!


【第3楽章:Menuetto:Allegretto】

張り裂けんばかりの緊張感を湛えた主部と、

対照的に愛らしくお茶目な表情が窺えるトリオ部。

前述したように、モーツァルトは妻が第一子を出産中に、このような曲を譜面に記していたのですね…。


【第4楽章:Allegro ma non troppo】

シチリア風の舞曲を思わせる、美しくも仄かな憂愁を湛えた主題と、4つの変奏から成る終楽章。

第1変奏では、美しく清らかな流れが、

第2変奏では、悲しみを煽るようなシンコペーションのリズムが、

第3変奏では、すすり泣くようなヴィオラの音色が、

第4変奏は長調へと転調し、爽やかな大気に包み込まれるように、しみじみとした趣が…

最後は、次第に哀愁を深めつつ、曲を終わります。


過剰な緊張感とは一線を画してはいますが、

しかし一瞬たりとも弛緩することなく、モーツァルトの短調作品の神髄をしみじみと味わうことができる、見事な演奏だと思いました。

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