とりわけ第3楽章は、妻の出産中に書かれたというエピソードが…!
どうしようもないどん底の状態にあっても、明るく透き通るような作品を書いたと言われるモーツァルト…。
逆に、人生最高の幸せな瞬間とも思える第一子誕生を控え、滅多に書かない短調作品を「何故?」とも思うのですが、
そこは天才作曲家、凡人には思いもよらないインスピレーションが湧きあがったのかもしれません…。
いずれにしても、奥深い悲しみを湛えた至高の作品を聴きながら、
モーツァルトの心の内を想像するのも、又一興かも…。
エントリーするのは、モーツァルトの時代のノンヴィブラート奏法を駆使したハーゲン四重奏団の演奏。
当初は、ふくよかさに欠けて、ぎすぎすした印象の響きに違和感を覚えたものでしたが、
最近は、個々の楽器の表現が鮮明に聴き取れるハーゲンSQの演奏に、興趣を覚えることが多くなってきました。
K.421は、その代表的なものと感じています。
【第1楽章:Allegro moderate】
物寂しく、すすり泣くように開始される冒頭部ですが、
次第に悲しみは昂じて、号泣に至ります。
個々の楽器の阿鼻叫喚が、古典という則の中で表現された、見事な演奏だと思います!
【第2楽章:Andante】
4つの楽章の中で唯一の長調ですが、寂寥とした心のうちに諦観すら感じられます。秋色が漂い始めた今の時期にシンクロした、心に浸み入る演奏!
【第3楽章:Menuetto:Allegretto】
張り裂けんばかりの緊張感を湛えた主部と、
対照的に愛らしくお茶目な表情が窺えるトリオ部。
前述したように、モーツァルトは妻が第一子を出産中に、このような曲を譜面に記していたのですね…。
【第4楽章:Allegro ma non troppo】
シチリア風の舞曲を思わせる、美しくも仄かな憂愁を湛えた主題と、4つの変奏から成る終楽章。
第1変奏では、美しく清らかな流れが、
第2変奏では、悲しみを煽るようなシンコペーションのリズムが、
第3変奏では、すすり泣くようなヴィオラの音色が、
第4変奏は長調へと転調し、爽やかな大気に包み込まれるように、しみじみとした趣が…
最後は、次第に哀愁を深めつつ、曲を終わります。
過剰な緊張感とは一線を画してはいますが、
しかし一瞬たりとも弛緩することなく、モーツァルトの短調作品の神髄をしみじみと味わうことができる、見事な演奏だと思いました。