以前、同国の作曲家トゥビンのバレー組曲「クラット」を聴いて感じた、素朴で大らかな民族性が滲み出た曲想から、
横綱目前と騒がれ、インタヴューなどで窺い知ったこの人のキャラクターを思い浮かべて、
「こんな人の好さそうな男が、勝てば周囲から持ち上げられ、成績が悪いとパッシングされる熾烈な世界で最高位を張れるのか」と心配したものでしたが、
案の定、そんな性格が精神的な弱さという形で露呈し、
加えて、取り組み中の怪我で満身創痍となった挙句に大関を陥落、引退に追い込まれてしまいました。
とりたてて相撲ファンでもなく、把瑠都ファンでもない私ですが、
生活・習慣等の文化の違う異郷の地で、大衆の前に無惨な姿をさらすよりも、
このようなあっさりとした幕引きが彼には相応しかったのではないかと思い、内心安堵しているのです…。
そんなつい1〜2年ほど前の彼の最盛期の日々を想い出して、今日はトゥビンの作品を!
中でも人気が高いと言われる、交響曲第4番「抒情」を聴きました。
第2次世界大戦の最中、ナチスに占領下に置かれていた1943年に書かれた作品ですが、
にもかかわらず、悲惨な状況は殆ど感じられず、
サブ・タイトル通りに抒情的な美しさに溢れ、
且つ逞しく力強い民衆のエネルギーが迸る、素晴らしい作品に仕上がっています!
【第1楽章:Molt moderate】
弦がしっとりと歌う冒頭のメロディーは、北欧の澄み切った夜空に瞬く星を思わせ、
幻想的な趣きを漂わせます。
【第2楽章:Allegro con anima】
土俗的な力強さを漲らせた民族舞曲と、
天空に煌めくオーロラを思い浮かべる幻想的な旋律が、
美しい自然の中に住まうエストニアの人々の、素朴で大らかな気性を髣髴させてくれます。
【第3楽章:Andante un poco maestoso】
荒涼とした自然の風景を描きつつも、
神経質なところは全く感じさせずに、壮大かつ大らかに展開されていきます。
民族の持つ血とも称えられそうな、聴くほどに味わいが増し、共感を呼ぶ音楽です。
【第4楽章:Allegro】
僅かに哀愁を湛えた民謡風のメロディーが、たたみかけるように力強く鳴り響く終楽章。
エストニア国民の美質とも称えうる、大らかで開放的な魅力に溢れたフィナーレは、
希望に満ちた国民の心なのでしょうか!
エストニアの抒情と、民族の力強さに加えて素朴さが内包された、
深い魅力を湛える味わい深い逸品だと思います。