近年のピリオド楽器で聴く演奏のように、溌剌・颯爽としたハイドン像とは一線を画した表現。
どの曲を聴いても大らかな温かさが感じられる点は共通しているのですが、
聴き込んでいくほどに、それぞれの曲の有する特徴が見事に描き分けられており、
格調高く味わいの深い演奏に、すっかり惚れ込んでしまいました。
今日エントリーする交響曲第98番は、サブタイトルが付いていないために演奏される機会は少ないようですが、
第2楽章にイギリス国歌“God save the King(Queen)”風の旋律が現われたり、
終楽章にはモーツァルトのK.563を髣髴させる旋律が現れたり、オブリガートチェンバロが使われたり…、
様々な愉しい趣向が凝らされていますが、
それでいて奇を衒うだけでない、大らかで格調の高い演奏が展開されています。
【第1楽章:Adagio-Allegro】
一体どんな物語が展開されるのかワクワクするような、暗雲が立ち込めたような序奏部。
しかしそれに続く主部は、堂々とはしていますが、気どった田舎紳士を思わせるもの。
カノン風の展開が、ユーモア感を高めていきます。
【第2楽章:Adagio cantabile】
冒頭は、前述した英国国歌が使われているのですが、私は解説書を読むまでは気付きませんでした…。
平凡ではあるのですが、静けさと格調を湛えた旋律が栄光へと高まる、そんな趣の音楽です。
【第3楽章:Menuetto:Allegro-Trio】
庶民的な親しみが感じられるメヌエット。
遠くから響くようなティンパニの一撃が、威張った田舎紳士の咳払いのよう…。
トリオ部のファゴットの音色に哀愁が感じられるのも、ご愛敬!
ハイドンらしい、温かいユーモアが感じられる演奏です。
【第4楽章:Presto-Piu moderate 】
第1主題は、モーツァルトのK.563の終楽章を髣髴させるような、懐かしさが…。
「ピウ・モデラート(いっそう中庸の速度で)」と記された部分は、手前でいったん曲が停止、
想い起こすように悲しみがこみあげてきますが、
これらは、前年の12月に亡くなったモーツァルトへの、哀悼の念なのでしょうか。
最後は、愛らしくも美しい独奏ヴァイオリンとチェンバロが印象的に響き、懐かしむように曲は終わります。
大らかな温かさやユーモアに加え、終楽章では天上への憧れさえ感じられるクレンペラーの演奏。
多岐にわたる表現の可能性を感じさせてくれた、素晴らしい演奏でした!