心地よい涼しさをとおりこして、足元が冷たく感じられるほどの朝…。
晴れているかと思うと、山を伝って下りてくる雲霧に覆われて、突然時雨れるような不安定な天候…。
久々に冷涼さを感じた時って、澄みきったチェンバロの音色が心に浸み入るもの!
で、取り出したのが、J.S.バッハの「ヴァイオリンとチェンバロのためのソナタ第1番」
シェリングのヴァイオリンと、ヴェルヒャのチェンバロによる演奏です。
孤独ながら厳かさを湛えたチェンバロの音色で開始され、
思いを込めたヴァイオリンの音色が、そっと寄り添ってくる第1楽章冒頭部。
曲が進むに従って、互いを思いやるように語り合う二つの楽器。
私の知るバッハ作品中でも、最も美しく、慈しみに溢れた音楽であり、演奏だと感じています。
きっぱりと活発に進行するヴァイオリンと、
厳かな格調を湛えながそれを支えるチェンバロの響き。
転調を繰り返しながら情熱的に進行していくさまは、哀愁をすら感じさせる舞曲のよう…。
第3楽章は、慈しみを湛えたアリアを歌うヴァイオリンと、
それを支える、呟くようなチェンバロが、
互いに陰となり日向となって進行していく趣…。
何度も表れるため息にも似た休符が印象的な、美しい音楽です!
終楽章は、鳥の囀りを思わせるような、喜悦に溢れたヴァイオリンの音色と、
それと絡まりながら、羽ばたくように天空へと舞いあがる、軽快なチェンバロの響きによって進行していきます。
そんな中に漂う、厳かさと物悲しさ…。
聴くほどに味わいの深さが増す、バッハ演奏の代表格だと思います。