フランス革命による絶対王政から共和制への変化、ナポレオンの台頭、神聖ローマ帝国の滅亡等々、
激動する社会の変動がベートーヴェンに与えた影響を抜きに考えることは、できないでしょう。
完成した1804年当時には、従来の古典的な様式を凌駕し、際立って斬新だったこの作品。
社会的正義を求めて情熱を燃やす、溢れんばかりのエネルギー感が曲の本質であり、
単にスタイリッシュさを求めるだけの演奏では、この曲の素晴らしさを表現することはできない!
最近の演奏を聴いていると、尚更そう思います。
エントリーするのは、昔から名盤の誉れ高いフルトヴェングラー/VPOによる、1952年に録音された唯一のスタジオ録音盤(EMI)。
【第1楽章:Allegro con brio】
晴天の霹靂のように、無からいきなり叩きつけられる冒頭の2つの和音…。
それに続いて、チェロが奏でるさりげない、しかし悠然とした趣きを有した主題…。
曲に共感するままに、
しかし決して激昂することがないのは、スタジオ録音のメリットでしょうか。
迸る感情を抑制させながら、自在に展開されていくこの第1楽章を聴き始める度に、
古典派の領域を大きく乗り越えた闊達な表現の中に、壮大なロマンが展開されていくように感じるのです。
【第2楽章:Marcia funebre;Adagio assai】
人の心の深奥に触れ、感動を呼び覚ますこの「葬送行進曲」には、哲学的な深い含蓄が…。
冒頭の主題は、深い悲しみの中にも敬虔な心が…
そして中間部の激しい二重フガートは、訃報に接した慟哭を思わせます。
聴く度に(とは言っても、今回聴いたのはほぼ5年ぶりですが…)、鳥肌が立つような凄絶さを感じます。
【第3楽章:Scherzo;Allegro vivace】
せかせかとしてはいますが、どこか幻想的で、愉しげなスケルツォ楽章。
トリオ部のホルンの誇らしげな三重奏は、微笑ましく、心の余裕すら感じられます。
【第4楽章:Allegro molto】
終楽章冒頭部では、思いっきり弓を引き絞るように、満々たる力を蓄えさせ、
ピチカートで奏される変奏主題の提示から、徐々に力を開放していくように、
そして、楽想に応じて大きく揺れるものの、常に基本テンポへと戻っていくように感じられるフルトヴェングラーの演奏の妙、
言い換えれば、全曲の構成を俯瞰した構成力の確かさというべきなのでしょうか!
とりわけ第6変奏での厳格なフーガを経て、
第8変奏では、悠久の広大な天空へと解き放たれ、自由に羽ばたくような壮大な感動は、特筆もの!
激動する社会変動の中で、力強く自らの信じる芸術を創造したベートーヴェンの、
斬新且つ不滅の価値を有する作品であり、演奏であると思います!