ここ数日、突然秋がやってきたように、凌ぎやすくなってきました。
そのせいか、普段聴く機会が少ないリストの作品を連続して聴きながら、色濃いロマンに浸っています。
リストの書いた唯一のピアノソナタロ短調は、発表当時の19世紀半ばでは、独創的で斬新な作品であったため、
「ロマン派を代表する最高傑作!」と高く評価された一方、
「…目的の無い騒音…。ただ混乱していて、明確な和声進行は一つとして見いだせない」(クララ・シューマン)
「支離滅裂な要素がこれほど抜け目なく厚かましく繋ぎ合わさった曲を聴いたことがない」(エドゥアルト・ハンスリック)など、
こっぴどい批判にも曝されました。
しかし、現在では殆どの著名ピアニストのレパートリーとなっており、
同じ1853年に完成した有名な交響詩「前奏曲(レ・プレリュード)」共々、リストの全作品中でも、屈指の人気を誇る曲として知られています。
今回聴いたのは、クラウディオ・アラウが82歳時の1985年にスイスで録音したもの。
ご承知のように、全曲は休みなく連続して演奏されますが、
このCDでは、4つのトラックに分けられています。
【第1部:Lento assai−Allegro energico −Grandioso−Recitativo】
不吉な予兆を感じさせつつ、不規則な心臓の鼓動を思わせる打鍵音が連続し、大きな期待感と耐えがたい焦燥感が交互に訪れます。
レシタティーボ風に夢・希望・憧れが仄見えつつも、時折不安がよぎる…
味わい深い時が、流れていきます。
【第2部:Andante sostenuto】
諦観に満ちた感情で開始されますが、次第に感情が昇華されていき、悟りの境地に至るような趣…!
【第3部:Allegro enegico】
フーガ風のこの部分は、凄まじい心理的葛藤を思わせますが、
やがて光明が仄見え、それに導かれるように、一途に突進していく心…。
【第4部:Andante sostenuto−Lento assai】
心に安寧が訪れるものの、冒頭の不吉な予兆が余韻の如くに漂います…。
最後に響くのは、弔いの鐘の音でしょうか。
アラウの壮大なロマンに溢れた演奏を聴くと、同時期に書かれた「前奏曲」の作曲を閃かせたというアルフォンス・ド・ラマルティヌの詩句「…人生は死への前奏曲…」との関連を考えずにはいられません。
「誇大妄想的」「真実味に乏しい」などと、毛嫌いされる方が多いことも承知していますが、
私には、深く果てしない詩情を湛えた、ロマン派音楽の名作の、最高の演奏と感じられます!