当時35歳のプッチーニの、出世作となったもの。
愛に対する純粋さと淫奔さを併せ持った美少女マノン・レスコーと、
裏切られつつも一途に彼女を愛する学生デ・グリューとの、悲恋物語です。
このオペラ自体の、物語としての起承転結は希薄です。
幕ごとに「アミアン」「パリ」「ル・アーヴル」「アメリカ」と、物語が展開する地名が示されているだけで、
全4幕を通して観ても、内容の繋がりを掌握することは出来ないでしょう。
内容に連続性が欠如している理由は、
作曲された当時、この物語は一般に広く流布されていたそうで、
そのために、いくつかの重要な場面を抜き出してオムニバス的に構成するだけで、十分に内容が伝わると考えられたようです。
エントリーするのは、シノーポリ指揮するフィルハーモニア管の1983〜4年にかけての録音。
【第1幕:パリの北方アミアン】では、
マノンが、デ・グリューの情熱にほだされて、駆け落ちに至るまでを…。
冒頭部に歌われるアリア「楽しき宵に」の、プッチーニらしい甘く爽やかな旋律が印象的!
【第2幕:パリ】では、
デ・グリューとの貧困生活に耐えかねて大臣の妾となり、なに不自由なくパリでの生活を送るが満たされず、
再び彼との生活を送るために逃亡を企てるが、失敗に終わり、捕らえられるまでを…。
デ・グリューに対する贖罪の気持を歌うマノン役のフレーニの歌唱の健気さには、不覚にも涙してしまった私ですが、
後半部の展開には、やや冗長さを覚えてしまいました…。
しかしながら、この後に第3幕への場面転換の音楽として奏される、有名な「間奏曲」以降の凝縮された素晴らしさ!
ここからのシノーポリの演奏の素晴らしさは、是非ともご体験頂きたく、強くお薦めします!
【第3幕:ル・アーヴル】では、
アメリカ大陸へ流刑にされるマノンを助けようと企てるが、失敗に終わり、
船長に懇願して、船員として同じ船に乗せてもらうまでの顛末が…。
マノンへの愛を貫き通す、デ・グリュー役の若き日のドミンゴの歌唱に、またまた涙が…。
そして【第4幕:アメリカ】では、死期を迎えつつあるマノンと、
どこまでも彼女を護りながらニュー・オルリーンズの原野を彷徨う、デ・グリューの姿が…。
寂寥とした荒野に響く、冴え冴えと身に浸み入るようなオーボエの音色は特筆もの!
繰り返しますが、特に第3・4幕の音楽展開は、無駄な音が一つもないと思えるほど、凝縮された素晴らしいもの!
年甲斐もなく、何度も何度も涙を誘われてしまいました。