1840年、結婚の年には139曲にも及ぶ歌曲を、
次の年には、一変して管弦楽曲に取り組み、交響曲第1、4番や「序曲、スケルツォと終曲」などを、
そして1842年に入ると、3曲の弦楽四重奏曲、ピアノ五重奏曲op.44、ピアノ四重奏曲op.47等の室内楽をと、
同一ジャンルの名作をまとめて書き上げるという、離れ業をやってのけました。
美貌の才媛で、最愛の女性クララとの幸福な結婚が、
シューマンの創造力を一層燃えたぎらせたということなのでしようか…。
おびただしい数にのぼるロマン派室内楽の中でも、屈指の名曲とされるピアノ五重奏曲は、こういった時期に誕生したものです。
今日エントリーするのは、ユボーのピアノと、ヴィア・ノヴァ四重奏団という、フランスの音楽家による演奏。
幸福感ゆえに、とめどなく溢れいずるシューマンの奔放なインスピレーションが、思いの丈を込めて余すところなく表現された演奏と、感じられるからです。
【第1楽章:Allegro brillante】
仄暗さを湛えつつも華やかに奏される第1主題、
それに続いて柔和な表情の第2主題が奏されますが、
いずれも狂おしいまでの愛情の迸りが感じられる演奏です。
展開部に入ると、突然悲劇の訪れを予知するような厳しさが顔を覗かせます…。
ロマン派文学にも共通するのであろう、劇的な側面すら感じられる音楽です。
【第2楽章:Modo d`ura Marcia】
吐息をつき、夢想しながらとぼとぼと歩を進める第1主題…。
そんな第1主題に、楽しかった日々を回想するような、神々しさすら漂う第2主題や、
動揺する心を表わしたような第3主題が絡まって、複雑な心境が表現された楽章です。
【第3楽章:Scherzo.Molt vivace】
鬱々とした感情を思いっきり吐きだすような主題部に加え、
苦しみの中に安らぎを覚えるような第1トリオと、
脇目もふらずに突っ走る、スポーティーな快感を覚える第2トリオが絡み、
挫折を乗り越えるような共感が感じられる楽章です。
【第4楽章:Allegro ma non troppo】
力強く輝かしい喜悦感に溢れた舞曲風の第1主題と、
ヴィオラで提示される美しく伸びやかな第2主題が絡み合いながら、
歓喜に向かって高揚していく、輝かしさに満ち溢れた終曲。
この文章を書き終わった時に、この演奏とは対照的で、内容的にはドイツ精神主義を想起するような、P.レーゼルとゲヴァントハウス四重奏団の演奏を想い出しました。
特に第2楽章が、全てに絶望し生きる力を亡くした、死への歩みを思わせるものだったこと!
名曲故に、数多くの名演が存在すると思いますが、こちらも、是非聴いてみてください…。