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W.A.モーツァルト:ピアノソナタ第10番 ハ長調 K.330  

クララ・ハスキル(ピアノ) 


K.330〜333の4曲のピアノソナタは、現在でこそモーツァルトがパリからザルツブルグに戻った1780年以降の作品と認められていますが、

嘗てはK.310のイ短調ソナタと共に、モーツァルトがパリ滞在中に書かれた作品とされてきました。


中でもK.330のハ長調ソナタは、

大きな希望を抱いてやってきたパリで、職を得ることもままならず、不遇な生活に陥り、

追い打ちをかけるように母を亡くし、不幸のどん底に突き落とされたモーツァルトが、

何故このように明るさに支配された、洒落て華やかな作品が書けたのか、謎のように言われていた時期がありました…。


一般的には、ギャラント様式で書かれた珠玉のような作品とされるこの作品ですが、

今日エントリーするC.ハスキルの1954年の録音を聴くと…。


【第1楽章:Allegro moderato】

滑らかに流れるような旋律ですが、その表情の活き活きとしていること!

モーツァルトの音楽が自らの血となり肉となったかのように、ハスキルの呼吸と音楽が一体化した素晴らしい演奏ですが、

同時に、淑女のような気高さを感じさせる音楽が展開されます。


【第2楽章:Andante cantabile】

第2楽章は、前述したパリで母を亡くしたモーツァルトの心境を念頭に置いた、ハスキルの秀逸な解釈が際立った演奏です!

主部は愛らしく気高い音楽なのですが、胸をよぎる一抹の不安が漂い…

短調の中間部には、自らの周りから人々が去っていったような言いしれぬ孤独感が漂う、寂寥とした雰囲気が…!

愛らしく気高い主部が回帰しますが、

左手が忍び寄る死の影を表現するように、この楽章を閉じます。


【第3楽章:Allegretto】

もつれるような喜悦感に溢れた終楽章なのですが、

単なる“無邪気さ”とは異なり、昇華された悦びが展開されるハスキルの演奏!


モーツァルトの音楽の、計り知れない深さを感じさせてくれた、素晴らしい演奏だと思います!

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