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D.ショスタコーヴィチ:交響曲第10番 ホ短調

ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮  ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団


第9交響曲が発表されてから8年後の1953年、スターリンの死の直後に作曲されたもの。

カラヤンが演奏した唯一のショスタコーヴィチの作品としても知られ、

1969年にベルリン・フィルを率いてのソ連公演では、作曲者本人や初演者のムラヴィンスキーを前に演奏したとか…。

カラヤンは、このディスクが録音される15年前の1966年にも同曲を収録していますが、

「何故この曲だけを…?」との疑問に対する明快な解答は、示されておりません…。


【第1楽章:Mederato】

「スターリンが統治する暗黒の時代を象徴する」と言われる第1楽章ですが…。

冒頭でのベルリン・フィルの磨き抜かれた音色は、

暗い地平線の彼方にようやく夜明けの兆しが現われ始めた時刻の、仄かな光の変化を表現したような、デリカシーに富んだ美しいもの!

「精緻の限りを尽くした、カラヤン美学の結晶」と申しても、決して言い過ぎではないでしょう!

第2主題の、幻想的な諧謔味を帯びたワルツの美しさ…!

やがて輝かしい夜明けを迎え、狂おしいまでの歓喜が訪れますが、再び闇が訪れて、遠くで轟く雷鳴…!

しかし、静かに潮が満ちてくるように、期待への予兆が…。

カラヤンの演奏で聴くこの第1楽章は、そんな期待をはらんだ壮大で息の長い音楽と感じられます。


【第2楽章:Allegro】

『ショスタコーヴィチの証言』(ヴォルコフ編)によると、この楽章は「スターリンの音楽的肖像」とか…。

軽快で心地良いスネア・ドラムのリズムに乗って、

狂気や嘲りを感じさせつつ、前のめりのままに、息つく間もなく一気呵成に突っ走り、ミリタリー調のマーチが、爆発的頂点へと駆け上がります…!


【第3楽章:Allegretto】

朦朧とした意識の中に浮かび上がる幻のような、不気味なワルツのリズム。

中間部の牧歌的なホルンの音色によって誘われる静謐な世界にも、涙がにじむような悲しみが…。

祭を思わせる狂騒がクライマックスに達し、幻影は静かに消えていきます。


【第4楽章:Andante-Allegro】

陰鬱な暗闇の中で語られる、オーボエを始めとする木管楽器による寂寥とした魂のモノローグを思わせる序奏部も、この演奏の聴きどころ!

次第に夜明けを迎えるようにイングリッシュ・ホルンやホルンが奏されて、

クラリネットの響きを合図に、嘲るような哄笑と快楽に狂喜乱舞する主部が展開されます。


私自身、この曲の第1楽章は、前述した理由でショスタコーヴィチの全作品中でも最高傑作と感じています。

そして、ショスタコーヴィチ本人や、初演者であるムラヴィンスキーがどのように批判しようとも、

カラヤンの演奏は、曲の内包する壮大さと美しさを最高度に表現し得た、特筆すべき演奏だと感じています!

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