シューベルトの没後10年以上が経過した1839年に、遺品の中からシューマンが発見したもので、
1861年に初版が出された時に、この名が付けられたとされています。
4楽章のソナタとして作曲されたものの、第3、4楽章が未完のままに終わっており、
後年、補筆完成版の作られてはいますが、
しかし、完成された第1、2楽章のみが演奏されることが圧倒的に多いようです。
若い頃から、シューベルトのソナタの中でも大好きな一曲でした!
とりわけ第1楽章の浮草のように揺蕩いつつ、
或いは寂寥とした荒野を彷徨いつつ、彼岸の世界を夢見るような、
そんなシューベルトの青年期特有の感傷や純粋で無垢な心に惹かれて、何度も何度も聴いた曲でした…。
ところが、15年以上にわたって生活を共にしてきた愛犬たちとの別れの日を意識せざるをえなくなった頃から、
あまりに辛くって、とても聴き通せる曲ではなくなってしまいました。
今日エントリーするW.ケンプの1967年盤は、
私がブレンデル盤や内田光子盤から聴き取っていた、死の病に侵された青年を強く意識させる内省的な演奏とは、いささか趣が異なる演奏…。
嘗ては時代掛かった表現と感じ、好きにはなれなかったのですが、
今聴くと、外面と内面とのコントラストが色濃く表現されたロマン派色の強い演奏に、思春期の青臭い想い出が蘇るような、
何ともいえない懐かしさを覚えるのです。
【第1楽章:Moderato】
第1主題が若々しく、輝かしい響きで開始されるのに違和感を覚えたのですが、
寂しげな内面が吐露される第2主題へと移行する部分の絶妙の美しさに、思わず息を呑みました!
時に憧憬を覚えながら、
時に寂寥感に包まれつつ、
逍遙する若者の魂が見事に描き尽くされた、感動的な第1楽章!
【第2楽章:Andante】
比較的早めのテンポで進められるこの楽章は、穏やかに語られつつも、時に激情に駆られる演奏。
サラリーマン時代は、この激情が自分の悩みとシンクロしてしまって、聴くことが辛かった演奏だったことをあらためて思い出しましたが、
10数年が経過した今は、懐かしい想い出として、走馬灯のように駆け巡っていきます…。
そして、そんな激情の日々を懐かしむような、静かなエンディングが訪れて…。
ヒトの感性って時と共に変わっていくものだと、つくづく思いました!