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R.シュトラウス:交響詩「ドン・ファン」

ルドルフ・ケンペ指揮  ドレスデン国立歌劇場管弦楽団


「ドン・ファン」とは、17世紀スペインの伝説上の放蕩児。

原型となったのが、ティルソ・デ・モリーナ(1578-1648:スペイン)の戯曲「セビリャの色事師と石の客」で、

聖職者でもあったモリーナが書いたこの劇は、

元来は放蕩を悪徳として、人々に教訓をもたらすための宗教劇だったそうです…。


しかし、自らの追い求めるもののために、一切の社会的束縛を絶ち切って自由気ままに振る舞うドン・ファンの姿に、

男の見果てぬ夢・ロマンを感じた芸術家は多かったのでしょう。

そんな生きざまをテーマとして、小説・戯曲・詩・音楽の分野で、数多くの作品が誕生しています。


R.シュトラウスの交響詩「ドン・ファン」は、

19世紀オーストリアの詩人、ニコラウス・レーナウ(1802-50)の遺作となった同名叙事詩にインスパイアされたもの。

この詩には、どこか虚無的で、自らの悲劇的な最期を予感する主人公の姿が描かれていると言われています。

そんな内容にインスパイアされて、24歳の青年期(1988年)に書かれたこの作品。


エントリーするのは、ルドルフ・ケンペ指揮するシュターツカペレ・ドレスデンの演奏。


冒頭部、力強く速いテンポで奏されるケンペの颯爽とした演奏は、

艱難辛苦に遭遇しながらもめげることなく付き進む、粋なドン・ファンの姿が思い浮かんできます…。


ハープやグロッケンシュピールに美しく彩られながら奏でられる独奏ヴァイオリンの音色は、ドンファンの想い描く夢(理想の女性)を表わしているのでしょう。

オーケストラが、彼の高まる思いを描いていきますが、

その恍惚とした表現の秀逸さは、高貴さと表裏一体の男のロマンとも思えるもの!

R.シュトラウスの音楽の魅力の一つです!

しかし、次第に焦燥感が高まり、やがて強烈に鳴り響く不協和音は、ドン・ファンの苛立ちと絶望を表わしているのでしょうか…。


気を取り直して、再びチャレンジを開始するドンファンですが…

オーボエが綿々と奏でるチャーミングな表情にも、やがて翳りが見え始め、

ホルンが有名なドン・ファンの第2のテーマを朗々と奏でますが、

これを合図にして、彼の現実との壮絶な葛藤が再び開始されます…。


そんな中にも、次第に虚無感が漂い始め…。

悲劇的な結末が訪れて、事切れるように曲は終わります。

曲が終了してもロマンの余韻が漂う、ケンペの残した名演の一つではないでしょうか!

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