短調作品ということで、時に尋常ならざるパトスの迸りが前面に押し出された演奏が高い評価を得る中、
今日エントリーするバレンボイムの演奏は、
落ち着いたテンポと、自然なフレージングで紡がれる穏やかで優美な音楽の中に、悲しみが滲み出る、
そんな、得も言われぬ美しさに溢れた名演奏だと思います!
【第1楽章:Molto allegro】
いきなり悲しみに満ちた第1主題が切迫力を持って登場しますが、
湧き上がるパトスを極力抑制しつつ、自然で穏やかなフレージングで奏されるためでしょうか、
決然とした力強さと優美さが、絶妙のバランスで心地良く心に響いてくる、名演奏!
【第2楽章:Adagio】
恣意の全く感じられない、自然な呼吸感で歌われるこの楽章は、
全体が至高の安らぎに覆われつつ、同時に感情の細やかな変化が表出されているために、
美しさの中に深みが感じられる、モーツァルトならではの素晴らしい音楽が展開されます。
尚、ベートーヴェンが書いた「悲愴ソナタ」の第2楽章の主題は、この楽章の中間部と極めて類似したもので、
その関連性について、様々に推測されています…。
【第3楽章:Allegro assai】
悲しげな響きの中に、彼岸への憧れが込められたような、シンプルで清らかな美しさが紡がれていく終楽章です。
途切れ途切れに奏される後半部は、生との決別が表現されているのでしょうか。
叩きつけるような激しい和音で、曲は終了します。
緊迫した劇的な趣と深い情緒表現が、高度な次元でマッチングした、素晴らしい演奏だと思いました。