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ヤナーチェク:歌劇「利口な女狐の物語」(全曲)

ルチア・ポップ(女狐)他  ウィーン国立歌劇場合唱団
サー・チャールズ・マッケラス指揮  ウィーン・フィルハーモニー管 


日中の気温が一段と温かくなり、我家の周囲の落葉松林からは、色んな鳥たちの声が賑やかに聞こえてきます。

こんな周りの様子とシンクロするような音楽が無性に聴きたくなって、

ヤナーチェクのオペラ「利口な女狐の物語」(全曲)に、1時間半にわたってどっぷりと身を浸しました。


ヤナーチェクが生まれたモラヴィア地方の首都ブルノの新聞に連載された挿絵つきの絵物語「早耳の女狐の冒険」は、

モラヴィアの森での様々な動物たちと人間との出来事を描いた、ファンタジックな架空の物語ですが、

猟場の番人で動物の生態を熟知した画家の、活き活きとしてユーモラスな動物の絵と、

方言を使った散文の面白さが大衆から広く支持され、

連載終了後には、単行本として発売されました。


これを原作としてヤナーチェク自らが台本を書き、1923年に全3幕のオペラとして完成されたのがオペラ「利口な女狐の物語」。

ヤナーチェクの台本では、原作にはない輪廻転生の思想が盛り込まれているために、

単にファンタジック或いはメルヘンチックな物語として終わらず、

瑞々しい生命感に溢れた、メッセージ性の強い音楽と感じるのかもしれません。


粗筋を知らずに初めて聴いた時から、飽きることなく全曲を聴き通すことができたこのオペラ!

モラヴィア民謡と日常会話の研究に基づいて、話し言葉の抑揚と旋律を結びつけた「発話旋律」の手法に基づいて、

季節ごとに変わりゆく自然の大らかな息吹や、

そこに生活する人間も含めた様々な動物たちの生態が、愛情深いまなざしをもって、肌理細やかに描かれているために、

前知識なく聴いても、音楽に身を浸すだけで十全な体験が出来る作品だと思います。


それ故に、敢えて粗筋を書くことは控えさせていただきますが、

強い民族色に彩られつつ、爽やかで清らかな感慨がもたらされるのは、ヤナーチェクならではのもの!

自由闊達で、活き活きとした自然の息吹が感じられる、名盤の誉れ高いマッケラス/ウィーン・フィル盤をお薦めしたいと思います。

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