創造力が一気に爆発したように、ロマン・ローランが「傑作の森」と称した作品群が誕生します。
今日エントリーするピアノソナタ第21番「ワルトシュタイン」は、その先駆とされる重要な作品で、交響曲第3番「英雄」とほぼ同時期の1803〜4年にかけて書かれたもの。
創造力の漲ったこの時期に、高名なピアノ製作者セバスチャン・エラールから、従来のものより大幅に表現力の増した(5オクターブ半)新型のグランドピアノが贈られますが、
中期の「ワルトシュタイン」「熱情」といった中期ピアノソナタの傑作群は、この高性能のピアノの存在なくしては、誕生に至らなかっただろうと言われています。
そしてこの作品からは、失意から立ちあがろうとするベートーヴェンの力強さもさることながら、
彼の抱いた理想の高邁さが伝わってくるように、感じられるのです。
エントリーにあたって何種類かの演奏を聴きましたが、その中で最も感動したのが1993年録音のブレンデル盤でした!
【第1楽章:Allegro con brio】
低音部の連打される和音は、あたかも新型ピアノの可能性に、ときめく胸の鼓動を表現しているような、覇気の漲った第1主題!
展開部から再現部にかけては、様々な期待や思い付きが叶えられていく、そんな悦びに溢れた音楽が展開されていきます。
【第2楽章:Introduzione;Adagio molto】
第3楽章への導入部と位置付けられているこの楽章は、
深い瞑想の中、次第に手が届きそうな期待感を高めつつ、次の楽章へと…
【第3楽章:Rondo;Allegretto moderato-Prestissimo】
今まで見えなかったものが次第に近づいてきて、やがて大らかに包みこまれることによって至福の喜びに浸る、夢のような瞬間が訪れます!
そんな至福の境地に戸惑い、ためらいがちにぎこちなくふるまうヒトの、愛らしい姿を思わせる終楽章!
コーダではようやく、躊躇うことなく、歓びへと飛び込んでいきます…。
シュナーベル、バックハウス、アラウ、ポリーニなどの演奏も素晴らしいと思うのですが、
上述したような人間的な温かみを表出したブレンデルの解釈が、私には最も好ましい演奏と感じられます。