兄の前王を殺し、その妻ヘロディアスを娶って王位に就いたヘロデは、
彼らの不品行を批判する予言者ヨハナーンを捕えて、城内の井戸に幽閉しますが、
彼が真の聖職者であると信じるヘロデは、処刑を躊躇してしまいます。
前王と妃のヘロディアストとの間に生まれ、妖艶な女性に成熟したサロメは、
義父ヘロデ王の、度々の好色な目つきに耐えられず、
ある時、宴の席を外してテラスへと逃げだしますが、
その時、地底から聞こえてくる声に興味を抱きます。
そこで彼女に好意を寄せる衛兵隊長を誘惑し、禁を犯してこの興味ある囚人との対面を果たしますが…。
果たして井戸から出たヨハナーンに、一目ぼれしたサロメ!
しかし彼は、母ヘロディアスの罪を咎めるだけで、
サロメの誘惑には目もくれず、再び井戸の中へと戻って行きます。
プライドを傷つけられたサロメは、好色な義父ヘロデの眼前で踊る(「7つのヴェールの踊り」)ことの代償として、ヨハナーンの生首を求めます。
あまりの要求であると同時に、真の聖職者を殺すことに不吉な運命を感じ、他の代償を提案するヘロデ王に対し、
これまでヨハナーンに散々罵られてきた妻ヘロディアスは、溜飲を下げる思い…。
結局、サロメの強い要望は貫徹され、ヨカナーンの生首を手に入れますが…。
生首を愛撫するサロメの様子を目の当たりにした王は、いたたまれなくなって、部下にサロメの殺害を命じます!
カラヤン指揮するウィーン・フィルの演奏で…。
R.シュトラウスの歌劇全曲を通して聴いたのは、実は今回の「サロメ」が初めてのこと…。
前述した粗筋を念頭に曲に聴き入りましたが、さすがR.シュトラウスです!
歌詞のドイツ語は殆ど理解できませんでしたが、
卓抜なオーケストラ表現のお蔭で、視覚なくしても、各場面を想定することは容易でした。
妖艶さ(=サロメ)を湛えた音楽に、いきなり惹き込まれた冒頭部。
最初は清純な愛らしさで、次第に肉欲を露わにしつつ、狂気のようにヨカナーンに迫るサロメ…!
有名な「7つのヴェールの踊り」では、最初は妖艶さを装いつつ、次第に自らが興奮の坩堝に嵌り、我を忘れて恍惚状態に陥っていくさまが…。
暗い井戸の底で、断末魔の声さへ上げずに首を切断されるヨカナーン…。
引き締まったヴァイオリンのユニゾンが、異様な切迫感を醸します。
ティンパニの乱打は、生首に狂喜するサロメを表わすのでしょうか。
管弦楽が生々しく血の滴りを表出する中、生首に語りかけるサロメは、次第に幸福の絶頂へと至ります!
狂気を目の当たりに、動顛した王ヘロデの、「あの女を殺せ!」の一言が発せられ、全ては終わります!
こんなに内容の充実したオペラを聴くのは初めてと言っても、過言ではありません。
特に幸福の絶頂にあるサロメが、今まさに奈落の底へ突き落されようとするエンディングには、思わず身震いし、深い余韻がいつまでも残りました。
R.シュトラウスの卓抜な構成力なのか!
或いは1時間45分に渡るこの演奏を、一気に聴かせてくれたカラヤンの鮮やかな手腕なのか!
いずれにしても、この作曲家の高い芸術性をもった未聴のオペラを、これから聴いていきたいと強く思いました。