力強くも、その中に苦悩や葛藤が込められた、深い哀愁を湛えた旋律と、
忠義の証とは言え、自らを奈落へと追いやる宿命のように打たれる鞭の音!
当時、既に通俗的なお芝居として知られていた赤穂四十七士の物語が、
このテーマ曲によって、随分格調高くなったように感じられ、
それを聴くことが一番の楽しみとして、その流れで毎週のように見ていたように記憶しています。
この作曲者が、文豪芥川龍之介氏の三男であることも、その時初めて知りました。
その後も、「八甲田山」「八つ墓村」「砂の器」など強烈に印象に残っている映画音楽は、
氏が音楽監督としての手腕を振るった作品であることを知り、
「さすがだな!」と唸らされたものでした。
親しみ易く美しい旋律、日本の祭囃子を思わせる土俗的で力強いリズム、そして効果的な楽器の使用法など、
人間の持つ複雑な情念が表出されているように思えて、私は大好きでした!
氏が作曲した本格的な作品を聴いてみたいと思い立って買ったのが、飯森泰次郎指揮する「芥川也寸志forever」と題されたCD2枚組アルバム。
その中から、今日エントリーする交響三章―トリニタ・シンフォニカは、東京音楽大学(現東京芸大)在学中の1948年に作曲されたもの。
尚、曲名の「トリニタ」とは、カトリックの用語で“三位一体”を意味するそうですが…。
【第1楽章:Capriccio.Allegro】
土俗感溢れる原始的なリズムと、活き活きとした木管楽器が組み合わされた表情は、
見聞きするもの全てが珍しく、“俄か西洋かぶれ”をしたような、ユーモラスと愉しさが感じられる音楽!
【第2楽章:Ninnerella(子守歌).Andante】
学生結婚した彼が、長女誕生への感動を込めて作曲したと言われています。
ファゴットとクラリネットが、昭和20〜30年代前半、高度成長期以前の日本の情景がしみじみと歌われます!
「いつまでも平和で、穏やかな日本であって欲しい!」
そんな祈りが聴こえてくるような、心に浸み入る音楽です。
【第3楽章:Finale.Allegro vivace】
表情を変化させつつも、土俗的な情熱で、一気果敢に突っ走るような、若々しい情熱に溢れた音楽!
第二次大戦終了から3年が経過した時期に書かれたこの作品には、「反戦」という強いメッセージ性こそありませんが、
若者の平和への祈りと、未来への希望が歌いあげられた佳作だと思います。