穏やかさに包まれた一日でした。
こんな日に聴きたくなるのが、ブラームスの2つの弦楽六重奏曲!
1858年の夏、ゲッティンゲンで出会った若いソプラノ歌手アガーテ・フォン・シーボルトと相思相愛の仲になったブラームスは、
2ヶ月の交際を経て、求婚の手紙をしたためましたが、
その内容が相手の気持を慮る余りの消極的な文面は、
逆にブラームスの真意に疑念を抱かせることになり、
心に傷を負った彼女は、プロポーズを断り、
その後再会することは叶いませんでした。
後悔と未練を心に抱えたブラームスでしたが、
1864〜5年、弦楽六重奏第2番を作曲することにより、
ようやく鬱々とした思いから解放されたとか。
真偽のほどは不明ですが、いかにもブラームスらしい逸話ではあります…。
今日エントリーするのは、ラルキブデッリの演奏によるもの。
ブラームスの作品=晩秋のイメージが強い中、
2曲の弦楽六重奏曲、とりわけラルキブデッリの演奏からは、早春の息吹を感じるのです!
【第1楽章:Allegro non troppo】
春まだ浅き中、茫漠と立ち昇る大気のような趣を持った第1主題に続き、
愛おしさと懐かしさが感じられる第2主題は、未だ冷めぬアガーテへの思いが込められているのでしょうか。
次第にウキウキとした気分が高まり、随所に新しい芽ぶきが感じられる、瑞々しい演奏です!
【第2楽章:Scherzo,Allegro non troppo-Trio,Presto giocoso】
地下で冬眠していた動物たちが目覚め、動き回るようなスケルツォ部。
トリオ部は、春を寿ぐ喜ばしい舞曲のよう!
【第3楽章:Poco adagio】
複雑な心境を思わせる瞑想的な主題が提示され、5つの変奏が展開されます。
もっとも、第5変奏が時間的に半分近くを占めるために、当初は変奏曲とは気付きませんでした…。
フーガ風の第3変奏には決然とした意志の力が、
第4変奏には力強い躍動感を覚えますが、
最終変奏では、再び瞑想的な雰囲気に包まれていきます。
【第4楽章:Poco allegro】
心地良い春風に吹かれるような、心がなごむ終楽章!
打ち震えるような繊細な悦びと、ブラームス特有の美しい憂鬱が込められた音楽が展開されていきます。
古色蒼然としたブラームスのイメージとは異なり、
各パートの伸びやかな響きが、曲に瑞々しく透明感溢れる活気を漲らせたこの演奏。
一聴されることをお薦めしたい名演だと思います!