初演は同年12月、ベートーヴェン自身の企画によってアン・デア・ウィーン劇場で行われました。
その時のプログラムは全て未公開の新作で、
前述の交響曲第5、6番に加え、
ピアノ協奏曲第4番、
ミサ曲ハ長調からの抜粋、
他にもピアノ曲、声楽曲など計8曲!
しかし、厳冬期の会場での4時間にも及ぶ意欲的なコンサートは、
リハーサルの不足もあったのでしょうが、
作曲者の意に反して、惨憺たる失敗に終わったと伝えられています。
後世クラシック音楽の定番として、
「運命」「田園」の名で多くの人に愛聴され続けている名曲たちの船出も、
決して順風満帆ではなかったようです…。
この曲は、前述したコンサートの締めくくりの曲として、ベートーヴェン作品としては珍しく速筆で、わずか半月ほどで仕上げられたとか。
十分な校訂がなされなかったせいか、曲の構成が単純で、捻りもなく、大らかな芸術讃歌と思われ、
そのために、演奏される機会も少ない作品です…。
ただ、一聴すれば「第9の原点?」と思われるほどに、歓喜の歌にそっくりなのが、興味深いところ…。
いかにもベートーヴェンらしく、気高い理想を掲げたような重厚なピアノのソロで開始されますが、
次第に饒舌さを加え、やがてオーケストラとピアノが対話する協奏曲形式に進展すると、
歓喜の歌を思わせる変奏主題が、独奏ピアノによって提示されます。
祝典的な内容の変奏が、ピアノ協奏曲的に進行!
終盤には、この変奏主題が一層光を浴びて、輝かしい四重唱によって登場し、高らかな合唱へと移行していきます。
エントリーするのは、録音当時25歳だったバレンボイムのピアノと、クレンペラー/ニュー・フィルハーモニア管による演奏。
正直申しますと、これまで聴いてきたこの曲は、華やかなだけで深みが感じられないため、ベートーヴェンの駄作かと思っていたのですが…。
高貴で穏やかなクレンペラーの指揮のもと、
水を得た魚のように活き活きと躍動する、若きバレンボイムのピアノ、
そして輝かしい四重唱と合唱!
これらがが三位一体となって静かな感動をもたらしてくれた、素晴らしい演奏でした!