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F.シューベルト:
弦楽四重奏曲第14番 ニ短調 D810 「死と乙女」

アルバン・ベルク四重奏団 


自作の歌曲「死と乙女」を第2楽章の変奏主題として用いたために、この副題が付けられたもの。

この曲は全楽章が短調で書かれていますが、このような作品は弦楽四重奏曲の分野でも大変に珍しいそうで、

比較的知られた作品としては、ショスタコーヴィチの第15番くらいだとか!

不治の病(梅毒)に侵されたことを知った絶望的な心境が、こういった調性の作品を生み出したと推測されています!


お薦めの演奏は、アルバン・ベルク四重奏団の1984年盤。

精緻なアンサンブルと卓抜な解釈によって、

この曲を覆う焦燥感や緊迫感が、夢見るような浮遊感へと昇華され、

比肩しうるもののない、儚くも美しい演奏が生まれました!


【第1楽章:Allegro】

いきなりの尋常ならざる緊迫感は、思いがけない運命に曝されて打ちひしがれた、心の動揺を表わしているのでしょう。

気を取り直しつつも、漂う空虚感。

精緻なアンサンブルによって醸される、行方の定まらぬ浮遊感!

シューベルトの音楽の美しさが、見事に表現された名演です。


【第2楽章:Andante con moto】

霞がたなびくように儚げに、悲しく提示された歌曲「死と乙女」の主題は、

第1変奏では、清楚で清らかな美しい歌となり、

第2変奏では、透き通るような至上の美しさを湛えたチェロの深々とした音色に、

そして第3変奏では、悲しみを振り絞るようなシンコペーションのリズムに乗って、憂愁を湛えた旋律が愛おしく健気に響きます!

第4変奏に至って初めて穏やかさが訪れ、過ぎ去りし美しき日々を懐かしく回顧する趣が…。

第5変奏では、穏やかな心が次第に波立ち、万感の思いへと高まり、最後は消え入るように曲を閉じます。


【第3楽章:Scherzo. Allegro molto】

取り憑かれたようにデモーニッシュな情熱を湛えたスケルツォ部と、

素朴で穏やかなトリオ部の対比から、

逆に不自然で、不安定なシューベルトの心境が伝わってきます。


【第4楽章:Presto】

猛烈なスピードで、何かに追われるように開始される終楽章。

ふと訪れる穏やかさにも、ふっきれない何かが…。

不安を振り切って、彼岸への憧れを求めるように、ますます加速されていくテンポ!


数多くの名演奏を残したアルバン・ベルク四重奏団ですが、

その経歴の中でもひときわ輝く、渾身のシューベルト演奏だと思います!

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