この曲は全楽章が短調で書かれていますが、このような作品は弦楽四重奏曲の分野でも大変に珍しいそうで、
比較的知られた作品としては、ショスタコーヴィチの第15番くらいだとか!
不治の病(梅毒)に侵されたことを知った絶望的な心境が、こういった調性の作品を生み出したと推測されています!
お薦めの演奏は、アルバン・ベルク四重奏団の1984年盤。
精緻なアンサンブルと卓抜な解釈によって、
この曲を覆う焦燥感や緊迫感が、夢見るような浮遊感へと昇華され、
比肩しうるもののない、儚くも美しい演奏が生まれました!
【第1楽章:Allegro】
いきなりの尋常ならざる緊迫感は、思いがけない運命に曝されて打ちひしがれた、心の動揺を表わしているのでしょう。
気を取り直しつつも、漂う空虚感。
精緻なアンサンブルによって醸される、行方の定まらぬ浮遊感!
シューベルトの音楽の美しさが、見事に表現された名演です。
【第2楽章:Andante con moto】
霞がたなびくように儚げに、悲しく提示された歌曲「死と乙女」の主題は、
第1変奏では、清楚で清らかな美しい歌となり、
第2変奏では、透き通るような至上の美しさを湛えたチェロの深々とした音色に、
そして第3変奏では、悲しみを振り絞るようなシンコペーションのリズムに乗って、憂愁を湛えた旋律が愛おしく健気に響きます!
第4変奏に至って初めて穏やかさが訪れ、過ぎ去りし美しき日々を懐かしく回顧する趣が…。
第5変奏では、穏やかな心が次第に波立ち、万感の思いへと高まり、最後は消え入るように曲を閉じます。
【第3楽章:Scherzo. Allegro molto】
取り憑かれたようにデモーニッシュな情熱を湛えたスケルツォ部と、
素朴で穏やかなトリオ部の対比から、
逆に不自然で、不安定なシューベルトの心境が伝わってきます。
【第4楽章:Presto】
猛烈なスピードで、何かに追われるように開始される終楽章。
ふと訪れる穏やかさにも、ふっきれない何かが…。
不安を振り切って、彼岸への憧れを求めるように、ますます加速されていくテンポ!
数多くの名演奏を残したアルバン・ベルク四重奏団ですが、
その経歴の中でもひときわ輝く、渾身のシューベルト演奏だと思います!