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R.シューマン:

ピアノソナタ第3番(グランドソナタ) op.14 

V.ホロヴィッツ(ピアノ)


この曲は、1836年に「管弦楽のない協奏曲」というタイトルで出版されましたが、

1853年にはスケルツォ楽章が挿入されるなど大幅な改定が施され、ピアノソナタ第3番(原題はグランドソナタ)として、再度出版されました。

尚、第3楽章の変奏主題には、後に妻となる名ピアニストであり作曲家でもあったクララの、「ワルツ形式によるカプリース集」op.2-7が用いられています。

この曲が作曲された当時、シューマンとクララは、クララの父ヴィークの猛反対で、会うことは勿論、手紙のやりとりすらできなかったとか。

クララへの満たされぬ思いが、シューマンの心の中で遼原の火のごとくに広がったのでしょうか…。

一種の憧れともとれる外面的な華やかさの陰には、鬱々とした狂おしいまでの感情が表出された作品となりました。


エントリーするのは、1976年のホロヴィッツの演奏!

シューマンの千千に乱れる心が、研ぎ澄まされた感性によってぎりぎりまでコントロールされつつ、

その一方で、果てし無き憧憬がいかんなく表出された、ロマンの香り高い名演だと思います!


【第1楽章:Allegro brillante】

冒頭の情熱的な下降音型のモチーフは、シューマンの絶望的な感情の吐露でしょうか。

ままならない狂おしいまでの情熱、憧れ、様々な複雑な感情が表出された、濃厚なロマン溢れる演奏です!


【第2楽章:Scherzo.Molto commodo】

後年(1853年)に挿入された楽章。

冗談っぽく、無邪気な気分が感じられるスケルツォ部。

トリオ部では、ふと恋に目覚めたような、夢見るような趣が…。


【第3楽章:Quasi varizioni. Andantini de Clara Wieck】

クララの主題による変奏曲。

孤独で悲しい歩みを思わせる主題、

4つの変奏は次第に狂おしいまでの情熱へと高まって行きます。


【第4楽章:Prestissimo possibile】

<可能な限り速く!>と指示された楽章。

きらびやかな(二度ほどショパンを思わせるような旋律が登場)な美しさと、深い情念が入り混じった、

めまぐるしい気分の変化が展開されるフィナーレです!


この曲は、多様な情念がせめぎ合う結果、しばしば聴き手に息苦しさを与えることが指摘されますが、

ホロヴィッツの演奏は、破綻寸前のぎりぎりの際どいところで感情表出を抑制しているのでしょう?

多様な感情が見事なまでにコントロールされ、

しかも情感が生々しく伝わってくる、素晴らしい演奏になったと思うのです…。

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