同じチェコでも、スメタナやドヴォルザークに代表される、多分に西洋的なボヘミア(チェコ西部)の音楽と比べると、土俗色の強さが印象的!
モラヴィアの民族音楽研究に取り組んだヤナーチェク(1854-1928)は、当地の民謡が話し言葉の抑揚から生まれていることに着目、
言葉の意味と関連させて、楽譜に写し取った旋律(発話旋律)を収集。
1903年に完成された歌劇「イェヌーファ」以降の作品には、この発話旋律を核とした動機を反復・変容させていくことによって、曲を構成するという手法が採られるようになりました。
ヤナーチェクはこの発話旋律について、「人間のある瞬間の忠実な音楽的描写であり、人間の心とその全存在のある一瞬の写真である」と述べていますが、
彼のの作品からは、土俗的な民謡風の旋律に加えて、
随所で苦悩・恐怖・煩悶といった心の深奥が赤裸々に感じられるのは、この音楽語法に因るのでしょうか…?
今日エントリーする「ヴァイオリンソナタ」は、1914年に大まかな草稿が描かれましたが、
その後度々改訂が施されて、1921年になってようやく完成された作品。
この間の1917年に37歳年下の既婚女性カミラと出会うことによって、
63歳のヤナーチェクの創作意欲に、再び火が点いたと言われており、
その後、歌劇「利口な女狐の物語」「マクロプロス事件」「死の家の記録」などを書き上げました。
この曲なども、若き人妻に恋焦がれる狂おしいまでの心情が、赤裸々に表現されているように感じるのですが…?
クレーメル、アルゲリッチの演奏を聴くと、民族的な色彩は希薄ですが、前述した心の深奥があからさまに表現されていると感じ、エントリーします。
【第1楽章:Con moto】
哀愁をふくんだ民謡風の旋律が提示される冒頭部、ピアノとヴァイオリンのピチカートによるが断片的な響きが琴の音を思わせるようで、美しくも謎めいたときめきが感じられる楽章です!
【第2楽章:Ballada. Con moto】
澄明な水面の輝きを思わせるピアノの伴奏の上を、
儚さを漂わせながら、ヴァイオリンが甘く切ない恋唄を奏でます…。
【第3楽章:Allegretto】
ヤナーチェク特有の、むせかえるよういな草いきれを感じさせる民族舞曲風の主部。
中間部の、辛さが滲み出るようなヴァイオリンの切ない響きは、所詮は報われぬ恋の苦しみでしょうか?
【第4楽章:Adagio】
心を慰撫するようなピアノの旋律を遮るように、断末魔の叫びを思わせるヴァイオリンの響き…!
究曲の感情の高まりと、心の不安定さを思わせる音楽が進行し、ついには諦めが漂い…。
ヤナーチェクの心があからさまに表現された、興味深い演奏だと思いました。