短期間で書き上げたと言われる、演奏会用序曲です。
帝政ローマ時代のギリシャ人著述家プルタークの『英雄伝』の中に描かれているコリオラヌスは、
古代ローマの宿敵ウオルスキ族と闘って、その町コリオリを征服し、一躍英雄となりましたが、
その人気ぶりを妬んだローマの護民官の策略で故国から追放。
復讐の鬼と化した彼は、コリオリの軍隊を率いてローマを侵攻しようとしますが、
母の献身的なまでの説得によって断念、
しかしその直後に、刺客によって暗殺されるというストーリー。
女性の高潔さによって、大罪を犯すことが救われるという、如何にもベートーヴェン好みの内容かな、と思います…。
この曲、学生時代に恩師のお宅で聴かせていただいた、A.ニキッシュ/BPOのSPレコードから聞こえてきた、
「古色蒼然とした(音の)たたずまいから立ち昇る、詩的なロマン!」という印象が焼き付いていて、
それ以降は、どの演奏を聴いても感動することがなかった曲の一つ…。
ところが、先日買ったばかりのフランツ・コンヴィチュニー/ライプツヒ・ゲヴァントハウス管のベートーヴェン交響曲全集に収録されていた演奏は、私が長年追い求めていた、前述した理想の「コリオラン」。
感激のあまり、それこそ鳥肌が立ちました!
冒頭に鳴り響く力強い第1主題には、憎しみ・怨念などの複雑な感情が含まれ、陰惨さすら感じられるもの。
曲の進行に伴って、時に焦りや苛立ちが吐露されるようで、その辺りの表現が際立った演奏だと感じます!
その一方で第2主題から立ち昇る果てしない夢とロマンは、
波一つない広大な大海原のような、母なる大自然を髣髴させる音楽!
指揮者の抱く壮大なロマンと、伝統的なゲヴァントハウスの音色が活かされた、いかにもドイツ的な演奏と納得!
新解釈とか、颯爽としたパフォーマンスが取りざたされる昨今のベートーヴェン演奏に辟易していた私ですが、
トスカニーニやコンヴィチュニーの演奏を聴いて、何故最近ベートーヴェン人気が今一つなのか、分かるような気がします!