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B.バルトーク:ヴァイオリン協奏曲第1番

ギドン・クレーメル(ヴァイオリン) 
P.ブーレーズ指揮  ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 


ハンガリー生まれの、知性派で美貌にも恵まれたヴァイオリニスト、シュテフィ・ゲイエルに想いを寄せたバルトークが、1907〜08年にかけて作曲し、彼女に献呈された作品。

しかし、献呈はされたものの、演奏される機会はなかったようで、

自筆譜のまま秘匿されていたために、その存在すら知られることなく、

彼女の死後に遺品の中から発見されることによって、初めて存在が明らかになったとか。

尚、この曲の第1楽章は、その後若干の改訂が加えられ、『管弦楽のための2つの肖像』の第1曲に、「理想的なもの」という副題付きで発表されました…。

ちなみに、第2曲は「醜いもの」!

一向に演奏されないジレンマから、彼女への当てこすりとも思えるような行動をとったものですが、

20世紀の生んだ大作曲家の真意は、果たして…?

今日エントリーするのは、クレーメルのヴァイオリン、ブーレーズ指揮するベルリン・フィルの演奏です。


【第1楽章:Andante sostenuto】

さめざめと泣くように奏でられるソロ・ヴァイオリンで開始され、それに呼応するオーケストラとのやりとりが、延々と続く、光の見えない前半部と、

ようやく明るさが仄見え始め、感動に満ちた美しい世界が広がっていく後半部から構成される第1楽章。

クレーメルの繊細なヴァイオリンの音色が際立つ、素晴らしい演奏です。


【第2楽章:Allegro giocoso】

第1楽章から一転して、活発に戯れ合うような、明るく開放的な民族舞曲風の音楽と、

官能の世界に揺蕩ような、甘美さを湛えた音楽から構成される第2楽章。

抑制されたオケの、精緻で美しい表現は、特筆に値するものだと思うのですが…。


この演奏を聴くと、『ヴァイオリン協奏曲第1番』とは、

第1楽章では、プラトニックな思いを伝えようとする、女々しいほどに柔弱なバルトークが髣髴されますし、

第2楽章では、文章として書けないような官能的な欲求を、赤裸々なまでに告白した作品!

私がこの演奏から感じた同質の印象を、ゲイエルが楽譜から読み取っていたとすれば、

特に第2楽章は、とても人前で演奏することは出来なかったと思います…。

バルトークの異性への想いを赤裸々に綴った作品として、大変に興味深く聴くことが出来ましたが、皆さまはどのように感じられますでしょうか…。

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