「死の舞踏」とは、死の恐怖を前に人々が半狂乱になって踊り続けるという、14世紀に書かれたフランス詩を起源とするもの。
人は全て、ある日突然訪れる死によって、身分や貧富の差がなくなり、無に統合されるという死生観に基づいていますが、
これは、14世紀半ばにヨーロッパ全土で流行したペストによって、
階層や貧富の差なく、人口の3割が罹患し、命を落としたことに起因するものと言われています。
「真冬の夜中の12時、墓場の暗闇の中から死神が現われてヴァイオリンを奏で始めると、
墓の中から屍衣を纏った骸骨が現われて、その音色に合わせて踊りだす…。
夜明けを告げる雄鶏の声が宴の終わりを告げ、彼らは墓場へと戻って行く」
そんな内容が、描写的に管弦楽化されています。
こんな内容を生々しく表現しているのが、トスカニーニ/NBC交響楽団の演奏。
冒頭、12時を告げる鐘を模したハープに続き、
不気味な低弦のピッチカートに乗って、悪魔のささやきのような、ヒステリックな独奏ヴァイオリンの音色!
リアリティに富んだトスカニーニの演奏は、秀逸だと思います。
フルートによって奏でられるワルツは、優雅でさえあるのですが、
弦楽合奏で繰り返される部分では妖しげな妖艶さが漂い、背筋がゾクッとするような不気味さが…、
見事な表現です!
地獄に吹き荒ぶような風も、リアリティに富んだもの!
「動物の謝肉祭」にも転用されたシロフォン(木琴)の音色は、踊り狂う骸骨の骨が擦れる様子を模した、サン=サーンス特有のウィットを弄した部分…。
踊りは最高潮に達し、死神や骸骨の不気味な哄笑が響き渡ると…!
突然曲が止んで、時を告げるようなオーボエの響きは、雄鶏の鳴き声を表わしているのでしょう。
宴の名残が後を引くように、恨めしげに曲は終わります。
全く気どりが感じられないトスカニーニの演奏は、
音楽が表現しようとしている内容を再現することにのみひたすら邁進する、ある意味愚直とも思えるのですが、
壺に嵌った時の表現の素晴らしさは、他に類を見ないもの!
録音が今一つであることが、唯一の欠点ですが、
機会があれば、是非ともお聴きになることをお薦めします!