こんな季節を迎えると、今年も又、リスト(1811-86)の「詩的で宗教的な調べ」が無性に聴きたくなってきました。
今日エントリーするのは、C.ツィメルマンのピアノによる第7曲「葬送」です。
スターピアニスト・作曲家として、華美な生活を送って来たリストでしたが、
1865年にはローマで聖職者の地位を得、それ以降は宗教的な生活を送るようになったと言われています。
この曲集は、それよりも10数年以前の1845〜52年にかけて作曲されたものですが、
華やかな生活の裏で疲弊した心を、作品中に自らの持つ宗教的な側面を表出することによって、癒しを得ていたのかと思えるような内容の作品です…。
第7曲「葬送」は、1849年にオーストリアの首相メッテルニヒに反抗して処刑された祖国ハンガリーの友人たちへの追悼の念が込められた作品と言われていますが、
同年に亡くなった、ショパンへの追悼の念とも…。
緊迫感を漲らせながら圧倒的な力で押し寄せる冒頭部は、抗うこともできずに死を迎えざるを得ない人への弔いの鐘、そして死への行進…?
ツィメルマンの演奏は、激しい慟哭と同時に、強い憤りが表出された、圧倒的なもの!
それに続く部分は、高貴な瞑想の世界が繰り広げられ、
やがて神に迎え入れられるように、穏やかさと歓喜が訪れます!
リスト特有の観念的な世界と感じつつも、男のロマンを感じながら、ついつい惹き込まれていく私…。
ツィメルマンの演奏によって、これまでこの曲を聴いて想像すらできなかった、静謐な悦びから大いなる感動へと止揚されるような体験を得ることが出来ました!!
中間部の、騎馬民族の突進を思わせる土俗的で力強い部分は、「英雄ポロネーズ」の中間部を思わせますが、ショパンへの追悼云々が語られる所以でしょうか。
力強い盛り上がりに肉体的快感が呼び覚まされる、ツィメルマンの圧倒的な迫力…。
再び押し寄せる、抗なうことの叶わぬ死への恐怖…。
再び訪れようとする瞑想の世界も、模糊とした意識に覆われていく、
そんな不気味さを湛えて、曲は終わります。
内面的充実を求めた、或いはそれに憧れたのであろう30歳代半ばから40歳の頃にかけて書かれたこれら曲集。
中でも第7曲「葬送」は、第3曲「孤独の中の神の栄光」とともに、内的充足感を満たしてくれる、夢とロマンに溢れた作品!
神を信じるような宗教心は全くない私ですが、
ツィメルマンの演奏は、おそらく生涯にわたって、愛聴盤となることでしょう。