もっぱら重厚長大なオーケストラ曲を、主に緩急強弱といった音楽の一側面を、したり顔で悦に入りながら聴いていたもので、
室内楽の繊細な表現を聴き取る聴覚は、残念ながら持ち合わせていませんでした。
その理由を、己の貧弱な感性を棚に上げて、
当時所有していた再生装置のためと責任転嫁するのは、ちょっと邪道…?
でも、30歳代の後半にイギリス製の小型スピーカーに変えた途端に、傾向が一転!
それを契機に、オーケストラ曲がつまらなくなく感じられるようになり、
もっぱら室内楽の繊細な表現を好むようになった体験から、
「再生装置によって曲の好みが変わるという事実は、否めない!」と、思うようになりました!
閑話休題!
で、オーケストラしか楽しめなかった時代に所有していた、室内楽の数少ないLPの中に、ポリーニとイタリア四重奏団によるこの曲があったのです。
正直、鬱陶しく感じる部分が多く、愛聴曲とは言えませんでしたが、
それでも、昔から耳馴染んでいた曲の一つでした。
今日エントリーするS.ヴラダーのピアノと、ウィーン音楽大学在学中の学生によって1980年に結成されたアルティス四重奏団による演奏を初めて聴いた時、
「何と初々しく若々しい演奏!」と、曲に対する認識が大きく変わりました。
流線型の颯爽としたアルティス四重奏団の演奏に、ツボを心得たヴラダーのピアノが、ごく自然に合いの手を入れるといった趣の演奏。
それぞれの楽器が醸す音色は、逆行を浴びながら木々から舞い落ちる色とりどりの葉を髣髴させる、風情あふれるもの!
爽やかな自然の中、深まりゆく秋を感じさせながら、同時に若々しく活気に満ちた音楽が冴えわたる演奏!
これまでの演奏では気付かなかった、新たなブラームス像を感じました。
各奏者の個性が十全に発揮されつつも、絶妙にブレンドされた音色を奏でる第1楽章!
暖炉の火を囲んでの寛ぎのひとときのように、心安らぐ第2楽章。
若々しく活気に満ちた第3楽章は、激しく燃え上がったままに突然終わりをつげ…。
前楽章で唐突に終わった情熱が、灰に埋もれた炭火のようにエネルギーを宿しつつ、暗示的に開始される終楽章序奏部。
明るく活気に満ちた、舞曲風とも歌謡風とも感じる終楽章主部!
これまで聴いたこの曲の演奏中、ブラームスがこの曲に託した心が、最も適切に表出されているように感じました。