出版に際して、自身で「悲愴ソナタ」と記したと言われ、現在もその名で呼ばれていますが、作曲者の意図は不明とされています。
この曲を初めて聴いたのは、バックハウスの演奏する三大ソナタ(悲愴・月光・熱情)のLPで、半世紀以前のことになります…。
この曲を、何故「悲愴」と名付けたのかと疑問を感じつつも、
格調の高さと、若々しい瑞々しさが、次第に白熱化していくこの演奏に、すっかり心酔!
他のピアニストの演奏に違和感を覚え、受け容れられないままに時が過ぎて行った曲の一つでした。
今日エントリーする1994年録音のブレンデル盤を聴いた時、バックハウス盤で感じた印象、
即ち開始部こそは重々しいものの、その後は未来に羽ばたくような憧れや希望に満ちた、そんな想い出が蘇えり、懐かしさを覚えたものでした。
【第1楽章:Grave;Allegro di molto e con brio】
重々しく、試行錯誤するように開始される序奏部は、逡巡する若者の心を表わしているのでしょうか?
しかし主題部に入ると、意を決したように、脇目もふらずに一直線に進む趣が…。
憧れ・希望に向かって突っ走る瑞々しい爽快感が素晴らしい演奏です。
【第2楽章:Adagio cantabile】
胸ときめかせながら、慈しみをもって人に接する趣の第1主題。
感極まって、打ち震える心を表わすような第2主題。
瑞々しい感性に溢れた、ブレンデルの演奏は、
嘗てバックハウスの演奏で覚えた感慨を、一層明快に表現しているように思えます!
【第3楽章:Rondo;Allegro】
瑞々しい飛翔感と同時に、何とも言えない潤いが感じられる、爽快な演奏です。未来へと羽ばたく若者の心が、実直に表現されているよう!
従来のピアノ曲と比較して感情表現の豊かさが際立つこの作品は、ロマン派音楽のピアノ書法の原点ともみなされています。
そして、古典派とロマン派の音楽が絶妙にブレンドされたと思えるブレンデルの解釈は、際立って秀逸なものだと感じています。