曲名にある「メルジーネ」とは、上半身が美しい女性、下半身が蛇という姿の水の精の名前です。
古今東西を問わず、美術や文学の分野において、水の精をモチーフとした作品は数多くありますが、
この作品では、美しい女性に身をやつしたメルジーネが、自らの素性を隠して人間の男と結婚して幸せな生活を得たにもかかわらず、
そのことが露見したために、夫や子供を捨てて去っていくというストーリー…。
日本でも、「鶴の恩返し」「雪女」などの民話にも共通した、ある種の宿命を感じさせる物語です。
エントリーする演奏は、アバド指揮するロンドン交響楽団(1984年)の録音!
若々しく精彩に溢れた演奏が私の好みにぴったりで、
このコンビによるメンデルスゾーンの交響曲やロッシーニ序曲集、ラヴェルの管弦楽作品などとともに、ここ20年来の愛聴盤でもあります。
フルートとオーボエの二重奏で開始される開始部は、湧きあがる泉を思わせるような鮮烈さを湛えた、大変に印象的なもの…。
後に書かれたワーグナーの楽劇『ラインの黄金』の前奏部、“ライン河水底の緑色の黄昏”は「この曲を参考にしたのかな?」と、ふと思ってしまいます。
情景描写の中にも、気高く愛らしいメルジーネの姿を髣髴させる、ファンタジーに溢れた素晴らしい演奏です。
開始部が終わると、曲は劇的な様相を呈して展開されていきますが、
様々な艱難辛苦に遭遇し、葛藤する心が表現されているのでしょうか。
最後は、フルートとオーボエにファゴットが加わり、
自らに課せられた定めを悲しむように、儚く美しい余韻を残しつつ曲は終了します。
いかにもメンデルスゾーンらしい、佳曲…!