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ベートーヴェン:ピアノソナタ第31番 変イ長調

エミール・ギレリス(ピアノ)


ベートーヴェン晩年の3曲のピアノソナタ(第39〜32番)は、「ミサソレムニス」と併行して作曲されたと言われていますが、

いずれの曲も、苦難を乗り越えてた後に達した清明な心境が表出された、傑作揃いだと思います!

中でも、終楽章に「嘆きの歌」と呼ばれる心に沁み入る印象的な旋律と、崇高なフーガ部を有する第31番は、

ベートーヴェンの全作品中でも、最も愛してやまない一曲です!


名曲故に、数多くのピアニストによる名演奏に恵まれた作品で、

E.フィッシャーの、際立った崇高さと力強さを併せ持った、劇的な高揚感溢れる演奏!

慈愛に包まれつつ、静かな高揚感に。身が清められるような思いを体験できた、,S.リヒテルの演奏!

純粋・無垢な天上的な清らかさが表出されたポリーニの演奏等々…

私が聴いた範囲でも、印象に残るディスクは数多くありますが…!


今日エントリーするのは、1995年8月、ベートーヴェンのピアノソナタ全集録音途上のギレリスが残した、最後の録音…。

この録音を最後に全集録音は途絶え、5曲を残して翌年8月に鬼籍に入りました


【第1楽章:Moderate cantabile molto espressivo】

気持を鎮め、ゆったりと呼吸するように開始される冒頭部!

自省するが如くに訥々と語られるエピソードからは、

ヒトの心の弱さ、儚さが滲み出るように表出されます、

次第に内面的な充実へと止揚していく、実に味わいの深い、名演奏だと思います!


【第2楽章:Allegro molto】

ギレリスの演奏では、すがるように乞い求めるヒトの弱さが表出されているようで…。

曲解釈の方向性を支配する、秀逸な解釈だと感じます!


【第3楽章:Adagio ma non troppo・Fuga】

レチタティーヴォ風に弱々しく奏される。有名な「嘆きの歌」と。

それに寄り添うように降りてくるフーガ主題の感動的なこと!

フーガ主題は、様々な表情で語りかけるものの、相容れることができないままに進行…。

再び「嘆きの歌」が、意を尽くしたかのように奏されると、ようやく大団円へと向かって力強さを増していくギレリスの演奏は、

ベートーヴェンの艱難辛苦の生涯を振り返るようで、大変に感動的なもの!


今の私が最も共感できる、人間的な素晴らしい演奏!

ギレリスの「白鳥の歌」と感慨深く聴き入るのは、私だけでしょうか…。

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