リスト(1811-86)の20歳代から60歳代にかけての人生の旅路で経験したこと、感じたことを、随時五線譜に書き留め、
折に触れて曲集として発表したもの。
「第1年:スイス」は1855年、「第2年:イタリア」はその翌年に出版されましたが、
今日エントリーする「エステ荘の噴水」が含まれた「第3年」は、1883年に出版されています。
彼の代表作の一つと言われるこの曲は、1877年に書かれた作品。
移住したローマで1965年に僧籍に入ってからは、宗教的な雰囲気を湛えた作品が多くなりましたが、
この曲の半ばにも、神への感謝を表現するような、素朴で実直な心境の吐露を感じさせる旋律が印象的に登場します。
しかし、それ以上に、この曲がリストの作品中でも高く評価され、幅広く親しまれる理由は、
ピアノのアルペジオが、
澄み切った水の流れや、
陽の光を映してきらめく水飛沫の移ろいを、繊細且つ鮮やかに表現しており、
後の印象派音楽の大家、ドビュッシーやラヴェルに先駆けた作品として、認められているからでしょう。
そしてCD化されている多くの演奏からは、
視覚的・感覚的な描写に起因した、ファンタジックな世界が拡がっていくように感じます。
ところが、今日エントリーするアラウが1969年に録音したこの演奏からは、
前述した印象に加えて、
かの地に纏わる、古から伝連綿として伝わる物語を聴くような、他の演奏からは得られない感慨が伝わってくるのは、
氏の歩んだ人生経験からくる、深い洞察力が成し得た業なのでしょうか!
リストの代表作と言われる『エステ荘の噴水』から、深い感動を呼び覚ましてくれる「超」のつく名演として、一聴されることをお薦めします!