彼の晩年の作品の多くには、死への不安・恐怖と同時に、彼岸への憧れが儚く漂っているように感じるのですが、
特に死の年の8〜9月にかけて書かれ3たとされるハ長調の弦楽五重奏曲からは、 か細い一縷の生きることへの希望が聴き取れるのです。
そういった曲という認識が私の頭には強くありましたので、愛犬たちに老いの陰りを感じていたここ5〜~6年は、とても聴く気になれませんでしたが、 最近はやっと気持も落ち着いてきて、こういった曲に心を寄せることが出来るようになりました。 エントリーするのは、心の微細な襞までをも昇華した美しさとして表現した、アルバン・ベルク四重奏団他の演奏です!
【第1楽章:Allegro ma non troppo】 虚ろな心の隙間に、そっと風が忍び込むように開始される、大変に印象的な冒頭部。 決然と立ち向かおうとする意志と、 ひたすら何かを求めるような儚さが交錯しながら果てしなく続いていく第1楽章!
【第2楽章:Adagio】 虚空に漂うような、儚いため息のような旋律…、 中間部での、激しい心の動揺が、息絶えるように弱々しく終息していく…。 弱々しい一本の糸に一縷の望みをつないで生きていくような…。 こんな切実な音楽を、見事に昇華して表現した、凄まじくも美しい演奏です!
【第3楽章:Scherzo(Presto)-Trio(Andante sostenuto)】 力強く勇壮な、狩を思わせる主部と、 トリオ部の、息絶え絶えに奏でられる哀歌との対照的な表現! 痛切です!
【第4楽章:Allegro】 ロンド風の愉しげな音楽ですが、気分が刻々と変化し続けることにより、 「人生は一場の夢」であることを実感させる… 古今東西、ヒトの儚さを描いた最高の芸術の一つと感じる曲であり、演奏です!
最後になりましたが、楽器編成はヴァイオリン(2)、ヴィオラ(1)、チェロ(2)という編成! 実に深い味わいを醸す編成でもあります! 地味な作品かも知れませんが、是非ともご一聴を!
ホームページへ