20世紀の大ピアニストバックハウス(1884-1969)が、最晩年に弾いたピアノ協奏曲と言えば、
もっぱらブラームスの2番とこの曲くらいだったとか。
なるほど、どちらもピアノとオケが静かに淡々と語り合う、味わい深い趣を有した作品です。
若き日には、卓抜な技巧を活かしたスケールの大きな演奏で「鍵盤の獅子王」と崇められ、
その存在の大きさゆえに、バルトークにピアニストとしての道を断念させ、
作曲家としての道を歩ませたという逸話をもつ大家が、
最晩年に至ってこれらの曲を慈しんだ心境が、何となく理解できるような気がしてきます…。
今日エントリーするのは、イッセルシュテット/ウィーン・フィルとの共演盤で、1958年バックハウス74歳時のスタジオ録音です。
【第1楽章:Allegro moderate】
静かに淡々と、アノとオケが語り合っていく第1楽章。
バックハウスのピアノは、決して自己主張をせず、
むしろオケに彩りを添えるような趣が感じられます。
この楽章の聴きどころは、カデンツォ部ではないでしょうか。
木陰に吹く風のごとくに爽やかに、
渓流のごとくに透明な、
山紫水明の地に佇むように、
澄み切った心境が伝わってくる、素晴らしい演奏です!
【第2楽章:Andante com moto】
オケがあの手この手で問いかけ、
ピアノがためらいがちに応える、そんなやり取りが繰り返され…、
ついに堰を切るように、ピアノが熱い思いを吐露してしまうのですが…、
その後に漂うやり切れない虚しさは、
若き日のベートーヴェンも感じた、青春のほろ苦い想い出しょうか?
【第3楽章:Rondo vivace】
明るいロンド楽章は、愉しげなオーケストラに身を任せ、
遙蕩うように奏されるピアノは、絶品!
劇的なカデンツォは、バックハウス自身によるものだそうですが、
ここで初めて強い意志を漲らせ、
最後はオーケストラと渾然一体となり、大団円へと向かっていきます。
ロマン派音楽の先駆けを思わせるような、若々しく、瑞々しい解釈の演奏に心惹かれつつも、
結局は、滋味深さを湛えたこの演奏に戻ってくる、私です…。