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ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第4番

ウィルヘルム・バックハウス(p)
ハンス・シュミット-イッセルシュテット  ウィーン・フィル


1806年に書かれ、ピアノとオーケストラが和気あいあいと語り紡いでいく趣のこの作品は、明るくて幸福感に満ちたもの。

20世紀の大ピアニストバックハウス(1884-1969)が、最晩年に弾いたピアノ協奏曲と言えば、

もっぱらブラームスの2番とこの曲くらいだったとか。

なるほど、どちらもピアノとオケが静かに淡々と語り合う、味わい深い趣を有した作品です。

若き日には、卓抜な技巧を活かしたスケールの大きな演奏で「鍵盤の獅子王」と崇められ、

その存在の大きさゆえに、バルトークにピアニストとしての道を断念させ、

作曲家としての道を歩ませたという逸話をもつ大家が、

最晩年に至ってこれらの曲を慈しんだ心境が、何となく理解できるような気がしてきます…。

今日エントリーするのは、イッセルシュテット/ウィーン・フィルとの共演盤で、1958年バックハウス74歳時のスタジオ録音です。


【第1楽章:Allegro moderate】

静かに淡々と、アノとオケが語り合っていく第1楽章。

バックハウスのピアノは、決して自己主張をせず、

むしろオケに彩りを添えるような趣が感じられます。

この楽章の聴きどころは、カデンツォ部ではないでしょうか。

木陰に吹く風のごとくに爽やかに、

渓流のごとくに透明な、

山紫水明の地に佇むように、

澄み切った心境が伝わってくる、素晴らしい演奏です!


【第2楽章:Andante com moto】

オケがあの手この手で問いかけ、

ピアノがためらいがちに応える、そんなやり取りが繰り返され…、

ついに堰を切るように、ピアノが熱い思いを吐露してしまうのですが…、

その後に漂うやり切れない虚しさは、

若き日のベートーヴェンも感じた、青春のほろ苦い想い出しょうか?


【第3楽章:Rondo vivace】

明るいロンド楽章は、愉しげなオーケストラに身を任せ、

遙蕩うように奏されるピアノは、絶品!

劇的なカデンツォは、バックハウス自身によるものだそうですが、

ここで初めて強い意志を漲らせ、

最後はオーケストラと渾然一体となり、大団円へと向かっていきます。


ロマン派音楽の先駆けを思わせるような、若々しく、瑞々しい解釈の演奏に心惹かれつつも、

結局は、滋味深さを湛えたこの演奏に戻ってくる、私です…。

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