最近聴いたCD

G.ロッシーニ:スターバト・マーテル

R.リッチャレッリ(s)  L.V.テッラーニ(s)
D.ゴンザレス(t)  R.ライモンディ(bs)

C.M.ジュリーニ  フィルハーモニア管弦楽団


イタリアオペラの作曲家として名声を博していたロッシーニ()1792-1868でしたが、

1829年に歌劇「ウイリアム・テル」発表後、体調不良を理由に、以降はオペラの作曲はしないと表明。

その後は、宗教曲やサロン風の小品などを作曲するにとどまりました。

そんな中で彼は、従来教会の儀式でしか演奏されなかった宗教音楽の素晴らしさを認識し、

一般のコンサート・レパートリーとして演奏されるように努力した人でもあります。

そして1831年には、自らも13世紀に生まれたカトリック教会の聖歌(詩)の一つ「スターバト・マーテル」に曲をつけますが、

体調不良のために長らく筆が止まり、1841年になって、ようやく完成。


そんな彼の「スターバト・マーテル」は、

我が子を亡くした母の悲しみを、静謐に歌いあげたそれまでの作品とは異なり、

時に悲しみを赤裸々に表現した、劇的変化に富んだ作品と言ってよいかと思います。


第1曲「悲しみの聖母は佇み」は、ざわざわとした心の乱れや、波状的に押し寄せる悲しみの中に感じられる仄かな光明は、亡き子を回想することが、唯一悲しみを癒すことができるかのよう…。

意気揚々とした明るさの行進曲風の第2曲「悲しみに佇むその魂を」は、在りし日の我が子の雄姿を懐かしむように聴こえ、逆に辛さが増すような…。テノールの歌唱が秀逸!

第3曲「誰か涙を流さない者があろうか」は、女声が語り合うように亡き子の優しさを語り合うよう。ホルンの穏やかな響きが、黄昏に溶け込んでいきます!

冒頭からティンパニが不吉に轟く中、バスの朗々とした歌唱が印象的な、第4曲「人々の罪のために」!

アカペラで演奏される、第5曲「愛の泉である聖母よ」は、英雄を偲ぶ祈りのようなバスの朗唱が、女声コーラスによって静かに締めくくられます、

各ソリストと木管楽器とのかけ合いが、涙がこみあげてくるほどに美しい、第6曲「おお、聖母よ」

ホルンとクラリネットが、夜のしじま響く、厳かさを湛えた第7曲「キリストの死に、思いを巡らし給へ」

凄絶な金管の響きで開始され、オケが痛々しいまでの慟哭を表現する、第8曲「裁きの日に我を守り給え」。

アカペラによる神秘的で静謐な祈りに満たされた、第9曲「肉体は死んで朽ち果てるとも」

神の畏怖に恐れおののくのは、残酷な運命にさらされる、痛ましいまでに希求する心情が表現された、第10曲「アーメン」。


ジュリーニの演奏は、カンタービレに富んだ説得力の強い表現と、

歌劇になる一歩手前でコントロールされた表現のバランスが絶妙な、見事な演奏でした!

ホームページへ