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ベートーヴェン:ピアノ三重奏曲『カカドゥ変奏曲』

スーク・トリオ
J.ハーラ(p) J.スーク(vn) J.フッフロ(va)


1816年、ベートーヴェン40歳代の半ばに書き上げられたとされる作品。

カカドゥ変奏曲と呼ばれるのは、

変奏主題として、W.ミュラーという作曲家の歌劇『プラハの姉妹』の中で歌われるアリア、「私は仕立屋のカカドゥです」の旋律が使われているからだとか。


重々しく開始されますが、ピアノの伴奏に乗ってヴァイオリンとチェロが優しく、時に深刻に歌い交わしながら、前途に光明を見出していくような、長大な序奏部は、

難聴の悪化、甥カールの非行や挙句の果ての自殺未遂など、

心身ともに疲弊し、創作上のスランプ状態に陥っていたベートーヴェンの、復活の兆しを象徴する、力強さを秘めた素晴らしい音楽です!


ヴァイオリントチェロが彩りを添えつつ、ピアノによって提示される愉しげな主題は、「これ、モーツァルト?」と、思ってしまいました。

ピアノによって歌われる。大らかで安らぎに満ちた第1変奏!

清流に泳ぐ魚のように、活き活きと爽やかなヴァイオリンが印象的な第2変奏!

一歩一歩踏みしめるように歩むチェロの響きが、思慮深さを感じさせる第3変奏!

3つの楽器が強調しつつアンサンブルを織りなす、活発な第4変奏!

それぞれの楽器が自己を主張を繰り広げる、精彩に溢れた第5変奏!

互いに競い合いながら、熱を帯びていく第6変奏!

ヴァイオリンとチェロによって、カノン風に展開されていく、発展的な拡がりが素晴らしい第7変奏!

シンコペーションのリズムが、愛らしいお喋りを思わせる第8変奏!

唯一短調へと転調される第9変奏は、悲しみを湛えつつ、歌い交わすヴァイオリンとチェロの響きの素晴らしさが印象的!

最後には、スキップしながら、人生を若々しく謳歌するような終曲へと向かっていく第10変奏!


序奏部などを聴くと、スランプを脱して後期の弦楽四重奏曲の深みへと向かう過程で作られた作品と思えるのですが、

変奏部分では、青年期に回帰したような瑞々しい感性と、

第7変奏のように、後のフーガへの模索とも思えるざん新さが同居した、興味深い作品!

スークトリオの演奏、とりわけ弦楽器の響きの美しさは、特筆ものだと思います。

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