最近聴いたCD

F.シューベルト:即興曲 D899(全4曲)

内田 光子(ピアノ)


シューベルト(1797-1828)は、死の前年の1827年に、D899とD935の即興曲を書きましたが、

以前目にしたライナーノートによると、D935の4曲は一つのソナタと見做されるのに対して、

D899の4曲は、それぞれが個性的な彩りを有する、独立した小品集と位置付けられていたように記憶しています…。

しかし、今日エントリーする内田光子さんの演奏を聴くと、

31歳で夭折した薄幸の天才作曲家が、その晩年に死への恐怖を抱く一方で、

現世への見果てぬ夢を願う、

そんな不安定に揺れ動く心が、全4曲に共通したテーマとして捉えられた演奏!

サラリーマン時代に仕事で悩んでいた時や、愛犬を亡くした時など、辛くて、とても聴けない演奏でしたが、

幸い今は、内田さんの解釈を受け容れ、共感し、涙することができるようになりました。


【第1曲:Allegro moderate】

怖ろしい事実を突き付けられた心の衝撃を表わすような、和音の一撃で開始される第1曲!

それを受けるどこか浮ついたリズムに、冷静さを装おうものの、動揺が…。

内田さんのD899は、この余韻が全4曲を覆っているように、私は感じます!

変奏曲風のこの第1曲は、

夢と現(うつつ)のはざまを彷徨うように、

限りなく美しい憧れと、拭いされない強い不安が波状的に押し寄せるような、そんな演奏です!


【第2曲:Allegro】

過ぎ去った幸福な日々が、走馬灯のように蘇る、そんな懐かしい郷愁を思い浮かべるような主部。

中間部は、やはり夢と現を逍遙する不安定な心!

一陣の風が心を吹き抜けるような、そんな印象的な第2曲です!


【第3曲;Andante】

苦しみが昇華させたかのように、美しい旋律が夢の中を揺蕩ように流れる第3曲!

前世から定められた運命にあがなえずに、翻弄される若者の儚さが、

高い次元へと昇華されて描き出された、

シューベルトならではの、極めて美しい抒情が滴る逸品!


【第4曲:Allegretto】

第4曲は、シューベルトの苦悩は昇華されて、強い覚悟すら感じられる音楽に…!

月の光に照らされた静かな湖面に揺蕩ような、静謐な中に輝く、美しい主部。

中間部の感情の高まりは、ただ彼岸の世界への憧れを希求する若者の心が愛おしく感じられて…、

聴く度に涙する、素晴らしい演奏です!


私はルプーの演奏も、ブレンデッルの演奏も素晴らしいと思うのですが、

内田さんのこの演奏は、別格のような気がして、

心身の状態さえよければ、生涯聴き続けるであろうと思います!

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