自らのために弦楽四重奏曲6曲と、
娘のために優しいピアノソナタ6曲を依頼しました。
当時のモーツァルトは、妻コンスタンツェが重い病に伏し、
予約演奏会にも聴衆が集まらないという状況に陥っており、
経済的に大変困窮していたにもかかわらず、
心身の過労が創作力に悪影響を及ぼしたのか、
弦楽四重奏3曲(第21〜23番)と、ピアンソナタ1曲(第18番)が完成されたのみ…。
チェロの名手である依頼主の意向に沿うように、
それまでのモーツァルトの作品では裏方的存在だったチュロに、活躍の場を与えようと苦労したことも、
筆を鈍らせた一因と言われています。
今日エントリーするのは、アルバンベルク四重奏団による1989年の録音。
とりわけ第1、2楽章の、モーツァルト晩年の、清明な美しさ!
そして終楽章のフーガでの、
各楽器の音色が空間に浮遊する鮮やかさに惹かれるからです。
【第1楽章:Allegro】
うっとりするような気品を漂わせながらも、
寂しげに、水面を滑るように流れる美しい旋律!
アルバン・ベルク四重奏団ならではの、
研ぎ澄まされた中にも、匂い立つような美しい音色に惹かれる冒頭部です。
展開部では、孤独感の中に静謐な美しさをたたえた、
モーツァルト晩年の清明な世界が展開されます。
【第2楽章:Larghetto】
川辺に佇みながら、穏やかな水面を移ろいゆく光と影を見るように、
絶妙なテンポ感で流れていくひととき…。
チェロの深みのある旋律が、とりわけ印象的に響く、
孤独な心境が密やかに歌われた楽章です。
【第3楽章:Menuetto-Moderato】
メヌエットの概念からは外れた、物々しい響き。とりわけチェロの重々しさ…。
トリオ部は、一陣の風のごとくに疾走する音楽。チェロの技巧の聴かせ処なのでしょうか。
【第4楽章:Allegro assai】
この楽章も、暗い印象を受けるのですが、括目すべきは、対位法の妙!
それぞれの楽器の響きが空間に浮遊するかのように響く、いかにもモーツァルトらしい素晴らしいフーガ!
モーツァルトの作品にしては、やや趣向を凝らし過ぎと感じなくもないのですが、
それでも高貴で清明な中に、晩年の孤独さが垣間見れるこの作品は、
天才作曲家の側面を知る上で、傾聴に値するものだと思います!