最近聴いたCD

W.A.モーツァルト:弦楽四重奏曲第22番 

アルバン・ベルク弦楽四重奏団


1789年、チェロの名手と言われたプロイセンの国王フリードリヒ・ヴィルヘルム2世は、

自らのために弦楽四重奏曲6曲と、

娘のために優しいピアノソナタ6曲を依頼しました。

当時のモーツァルトは、妻コンスタンツェが重い病に伏し、

予約演奏会にも聴衆が集まらないという状況に陥っており、

経済的に大変困窮していたにもかかわらず、

心身の過労が創作力に悪影響を及ぼしたのか、

弦楽四重奏3曲(第21〜23番)と、ピアンソナタ1曲(第18番)が完成されたのみ…。

チェロの名手である依頼主の意向に沿うように、

それまでのモーツァルトの作品では裏方的存在だったチュロに、活躍の場を与えようと苦労したことも、

筆を鈍らせた一因と言われています。


今日エントリーするのは、アルバンベルク四重奏団による1989年の録音。

とりわけ第1、2楽章の、モーツァルト晩年の、清明な美しさ!

そして終楽章のフーガでの、

各楽器の音色が空間に浮遊する鮮やかさに惹かれるからです。


【第1楽章:Allegro】

うっとりするような気品を漂わせながらも、

寂しげに、水面を滑るように流れる美しい旋律!

アルバン・ベルク四重奏団ならではの、

研ぎ澄まされた中にも、匂い立つような美しい音色に惹かれる冒頭部です。

展開部では、孤独感の中に静謐な美しさをたたえた、

モーツァルト晩年の清明な世界が展開されます。


【第2楽章:Larghetto】

川辺に佇みながら、穏やかな水面を移ろいゆく光と影を見るように、

絶妙なテンポ感で流れていくひととき…。

チェロの深みのある旋律が、とりわけ印象的に響く、

孤独な心境が密やかに歌われた楽章です。


【第3楽章:Menuetto-Moderato】

メヌエットの概念からは外れた、物々しい響き。とりわけチェロの重々しさ…。

トリオ部は、一陣の風のごとくに疾走する音楽。チェロの技巧の聴かせ処なのでしょうか。


【第4楽章:Allegro assai】

この楽章も、暗い印象を受けるのですが、括目すべきは、対位法の妙!

それぞれの楽器の響きが空間に浮遊するかのように響く、いかにもモーツァルトらしい素晴らしいフーガ!


モーツァルトの作品にしては、やや趣向を凝らし過ぎと感じなくもないのですが、

それでも高貴で清明な中に、晩年の孤独さが垣間見れるこの作品は、

天才作曲家の側面を知る上で、傾聴に値するものだと思います!

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