帰国後は祖国ボヘミアを終の住まいと定めました。
様々な名誉を得てきたドヴォルザークでしたが、
オペラでは未だ成功を収めることができなかったために、
国民的な大作オペラの完成に意欲を燃やし、
祖国の民話や詩を題材にした標題音楽に力を注ぎ始めます。
ドヴォルザークは1896年に、
チェコの国民的詩人エルベン(1811-70)が、民間伝説や民話に基づいて書いた詩集「詩の花束」に収載された13篇のバラードから、
4篇(真昼の魔女・金の糸車・水の精・野ばと)を選んで、4つの同名の交響詩を作曲したのは、
国民的オペラの大作を書くための下準備だった、とも考えられているようです。
今日エントリーする「野ばと」の粗筋は、
若い男と深い関係になった人妻が、夫を毒殺し、
葬儀では悲しみを装いますが、その後、男と再婚。
しかし、亡夫の墓の上に生えた樫の木が生長し、鳩が巣を作ると、
その鳴き声を聴くたびに罪の意識に苛まれた彼女は、
ついには自らの命を絶ってしまう、
そんな内容のバラードです!
深い悲しみを湛えた葬送行進曲によって、曲は開始されます。
澄み切ったトランペットの響きが、一層の悲しみを表現する一方で、
ひきつった、或いはひっかくように奏される弦楽器は、
悲しみを装う一方で、「してやったり!」とほくそ笑む、妻の哄笑を表現しているのでしょう。
トランペットが華やかに奏され、未亡人となった女と、若い男との結婚の祝宴を描いているのでしょうか。
とろけるような甘美な旋律と、葬送の曲とが交互に登場するのは、
払拭し切れない運命を予兆しているのでしょう…。
ボヘミアの力強い、或いは郷愁を漂わせた民族舞曲が奏されて、祝宴が佳境に達する中にも、
時折聞こえてくる、悲しげな野ばとの鳴き声…。
やがて訪れる、穏やかな黄昏時にも、次第に不気味さが漂い始めます…。
悲しげな野ばとの鳴き声が聞こえる中、罪の意識に苛まれる女の激情…、
エンディングの穏やかさは、自らの胃に血を絶つことによって、救われたと言うことなのでしょうか?
クーベリック指揮するバイエルン放送響の演奏は、ドヴォルザーク特有の旋律の美しさと、詩が内包するのであろう劇的な表現に長けた名演奏!
あまり聴かれることのない交響詩ですが、
聴き応えのある作品として、最近よく聴くようになりました。