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G.マーラー:交響曲第6番「悲劇的」

L.バーンスタイン  ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団


マーラー(1869-1911)がウィーン時代の1904年に作曲された、大編成ながら精緻なオーケストレーションによる古典的な4楽章形式の、純管弦楽による交響曲。

しかしこの曲を聴いていると、第1、3、4楽章で登場する、ひとときの心の安寧を象徴するかのようなカウベルの響きや、

第4楽章で3度(奏によっては2度)強打される、全てを打ち砕くようなハンマーの一撃など、

特殊な楽器(?)を使うことによって、彼の秀いでた管弦楽法をもってしても表現しえなかった(のであろう)メッセージが、突いた割ってくるように思います。


演奏は、バーンスタイン指揮するウィーンフィルによるもの。

マーラーの情熱と苦悩が、強いメッセージとして伝わってくる凄絶な演奏として、既に定評高い名演奏です。


【第1楽章:Allegro energioco、ma non troppo】

冒頭から、しゃにむに突進していくような荒々しさで開始されるこの楽章は、

うめき・嘆息・諦め等の感情が複雑に交錯。

中間部のカウベルに響きで、ひとときの平安が訪れるものの、

一層勢いを増して、最後は怒涛の如くに突進していきます。


【第2楽章:Scherzo.Wuchtig】

ヒステリックなティンパニの強打、コントラバスやチューバの咆哮など、襲いかかる様々な苦悩!

中間部では、そんな中にもひとときの安らぎが訪れるますが…。

自負と不安が併存したような、不安定な心境が表現されたこの楽章は、

現代における社会の病巣にも一脈通ずるテーマなのかもしれません…。


【第3楽章:Andante moderate】

ウィーンフィルの美しい響きが最大限に発揮された、素晴らしい演奏。

現実を離れて、夜の静寂に希望、幸福感が、一場の夢の如くに儚く漂う、美しい音楽です。

新妻アルマや誕生したばかりの子供に囲まれ、疲弊した心が癒される、穏やかな心境が反映されているのでしょう…。


【第4楽章:Allegro moderate-Allegro energico】

悲劇的な運命の到来を告げるティンパニーの強打、

不気味なチューバの響き、

教会の鐘を模したベルの響く中の重々しい葬列…。

主部に入ると、時にカウベルの響きが安らぎを思わせるものの、

波状的に襲来する悲劇的な運命に翻弄されるように、曲は展開されます。

三度強打されるハンマーの一撃によって、全ては灰燼に帰すかの如く打ちのめされます…。


幸せの絶頂期であったはずのマーラーですが、

この時期に脳裏をよぎっていたのは、

自らの芸術が否定されることへの不安なのか、

或いは、死への恐怖だったのか…。

マーラーの屈折した心境を、音楽として明晰に表現し得た、バーンスタイン屈指の名演の一つ、と感じています。

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