しかしこの曲を聴いていると、第1、3、4楽章で登場する、ひとときの心の安寧を象徴するかのようなカウベルの響きや、
第4楽章で3度(奏によっては2度)強打される、全てを打ち砕くようなハンマーの一撃など、
特殊な楽器(?)を使うことによって、彼の秀いでた管弦楽法をもってしても表現しえなかった(のであろう)メッセージが、突いた割ってくるように思います。
演奏は、バーンスタイン指揮するウィーンフィルによるもの。
マーラーの情熱と苦悩が、強いメッセージとして伝わってくる凄絶な演奏として、既に定評高い名演奏です。
【第1楽章:Allegro energioco、ma non troppo】
冒頭から、しゃにむに突進していくような荒々しさで開始されるこの楽章は、
うめき・嘆息・諦め等の感情が複雑に交錯。
中間部のカウベルに響きで、ひとときの平安が訪れるものの、
一層勢いを増して、最後は怒涛の如くに突進していきます。
【第2楽章:Scherzo.Wuchtig】
ヒステリックなティンパニの強打、コントラバスやチューバの咆哮など、襲いかかる様々な苦悩!
中間部では、そんな中にもひとときの安らぎが訪れるますが…。
自負と不安が併存したような、不安定な心境が表現されたこの楽章は、
現代における社会の病巣にも一脈通ずるテーマなのかもしれません…。
【第3楽章:Andante moderate】
ウィーンフィルの美しい響きが最大限に発揮された、素晴らしい演奏。
現実を離れて、夜の静寂に希望、幸福感が、一場の夢の如くに儚く漂う、美しい音楽です。
新妻アルマや誕生したばかりの子供に囲まれ、疲弊した心が癒される、穏やかな心境が反映されているのでしょう…。
【第4楽章:Allegro moderate-Allegro energico】
悲劇的な運命の到来を告げるティンパニーの強打、
不気味なチューバの響き、
教会の鐘を模したベルの響く中の重々しい葬列…。
主部に入ると、時にカウベルの響きが安らぎを思わせるものの、
波状的に襲来する悲劇的な運命に翻弄されるように、曲は展開されます。
三度強打されるハンマーの一撃によって、全ては灰燼に帰すかの如く打ちのめされます…。
幸せの絶頂期であったはずのマーラーですが、
この時期に脳裏をよぎっていたのは、
自らの芸術が否定されることへの不安なのか、
或いは、死への恐怖だったのか…。
マーラーの屈折した心境を、音楽として明晰に表現し得た、バーンスタイン屈指の名演の一つ、と感じています。