最近聴いたCD

B.バルトーク:バレー『かかし王子』全曲

イヴァン・フィッシャー  ブダペスト祝祭管弦楽団


バルトークが作曲した唯一のバレー音楽。

「じゃ、『中国の不思議な役人』は?」と思われる方も多いでしょうが(私もそうでした)、

こちらはパントマイムだそうですので、念のため!


バレーの粗筋は、

王女に一目惚れした王子が、彼女にプロポーズしようとしますが、

妖精の悪戯によって往く手を阻まれ辿りつけず、

止むを得ず彼女の目を惹くために、

杖に自分の王冠や衣服、金髪切ってを飾り付けた「かかし」高く掲げることによって、

ようやく彼女に気付かせ、誘い出すことに成功はしたのですが…。

彼女は、王子の衣服を脱ぎ捨てたみすぼらしい男には一顧だにせず、

王子の服を纏った「かかし王子(=見せかけだけの虚像)」に夢中になります。

しかし、やがて「かかし王子」の空虚さに気付いた王女は、

次第に本物の王子に心を寄せ始めますが…、

意に反して王子は、彼女に背を向けます。

絶望した王女は、自らの王冠や外套を捨て、髪の毛まで切り落とします…。

しかし傷心した王女に、王子が優しく寄り添っていく……。

そんな寓話のような内容の、メルヘンバレーです。

尚、一説によると、ストラヴィンスキーの『ペトルーシュカ』にインスパイアされたとも言われているそうです…。


序奏部と7つの舞曲から構成されるこの作品は、全曲が途切れることなく演奏されます…。

今日エントリーするイヴァン・フィッシャーの演奏の魅力は、

登場人物の活き活きとした描写と、

随所でハンガリーの風土を彷彿させる、民族色豊かな響きが聴けること。


序奏部は、ワーグナーの楽劇『ラインの黄金』の前奏曲を思わせるような、後期ロマン派色の濃い音楽!

森の夜明けを表わしているのでしょうか。


第1舞曲の躍動感に富んだ木管の表情は、

森を逍遙する若い王子や王女の姿が彷彿されます。


第2舞曲での、妖精の魔術によって生ずる不気味にざわめく森の活写!


第3舞曲では、のどかな風景描写や、手に汗握る攻防が印象的!


第4部曲での、時にコミカルに、時に深い悲しみをと、

千変万化する表情が、眼前に髣髴するような見事な表現。

「運命交響曲」第1楽章のパロディらしき旋律まで、聴き取れます!


さめざめとした悲しみや、絶望的な孤独感が、

のどかな風土に包まれながら、やがて癒されていく第7舞曲…。


幾つかの演奏を聴き比べてみて、

ハンガリーの民族色が表出されてこそ曲の良さが生きてくる、

そんな音楽だと感じた次第です。 、

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