最近聴いたCD

R.シュトラウス:
交響詩『ツァラトゥストラはかく語りき』  

R.ケンペ指揮  シュターツカペレ・ドレスデン


1968年に封切られた映画『2001年宇宙の旅』のオープニングタイトル曲として、あまりにも有名なこの曲の導入部。

当時、この映画を映像・音響共に迫力満点のシネラマで観たという友人が、「映画館の床が、地響きのように揺れ動くので、地震かと思った」などと、熱っぽく話していたこともあり…

映画の評判が、広く一般に知れ渡ってしばらくしてから、メータ/ロスアンジェルス・フィルによる、超Hi-Fi録音を標榜するLPが発売されて、大評判になったこともあり…、

「この曲は、優秀録音でないと!」と、無意識のうちに思い込んでいました。

その証拠に、我が家のCD棚にあるこの曲は、演奏者で選んだというよりも、殆どが超優秀録音と評価されたディスクばかり…。


今日エントリーするケンペ/SKD.の演奏は、1971年に録音されたものですが、

ボックスセットに入っていたこの演奏をこれまで聴かなかったのは、

「録音が古い」という理由で、無意識のうちにセレクトの対象から外していたためでしょう。

ちなみに、映画で使われている音源は、1959年に録音されたカラヤン/VPO盤(DECCA)だそうですが…。


「哲学者ニー-チェの同名著作にインスピレーションを受けて、作曲された」とされるこの作品…。

学生時代に、この哲学書に無謀にも挑戦し、ごく一部の木しか見えず、結局森の全容を把握することができなかった私…。

音楽の方は、タイトルの意味など考えずに、演奏ごとの表現に集中しているのですが…。


初めて聴いたこの演奏は、細部を彫り刻むことには拘らず、

思索に耽る悦びや情念的な歓喜を、主として音楽の起伏によって表現しているようで、今の私には、しっくりと馴染めます。

録音も含めて印象的だった部分を列挙すると、

【T.序奏】
音響の良さで定評ある、ドレスデンのルカ教会で録音されたこの演奏。
空間を揺るがす風圧すら感じられるパイプオルガンの響きと、コントラバスが刻むトッテイの擦れ感までもが、見事に収録されています。

【U.後の世の人々について】
オルガンの余韻が鎮まり、蠢くような低音が、内容の意味深さを暗示する開始部!

【W.歓喜と情熱】
咆哮する金管の熱っぽい響きは、思索から得る菅藤の表現でしょうか。
オーボエやホルンが奏する抒情的な旋律とが相俟って、R.シュトラウス特有の陶酔感が、如何なく表現されています!

【X.埋葬の歌】
W. と対照的に、オーボエの奏でる寂寥感をたなびかせつつ、

【Y.科学について】
チェロとコントラバスの分奏によって、フーガ風に重々しく沈降していくこの曲からは、諧謔的なニュアンスが感じられ、

【Z.病から回復に向かう者】
試行錯誤しながら解決に向かうこの過程が、見事に表出された演奏だと思います。

【\.さすらい人の夜の歌】
前曲の華やかさが鎮まり、解決されないテーマを抱えつつ瞑想する趣が….
打ち鳴らされる鐘が、不安定感を一層増幅していく、印象的な終結部です。


雄渾壮大なこの演奏、カラヤン/ベルリン・フィル盤と並んで、今後私の愛聴盤になると思います。

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