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ベートーヴェン:ピアノソナタ第16番  

アルフレッド・ブレンデル(ピアノ)


1802年、難聴に苛まれて自殺まで考えたとされる、有名な「ハイリゲンシュタットの遺書」が書かれた時期と重複して作曲されたたもの。

にもかかわらず、交響曲第2番、ヴァイオリンソナタop.30の3曲(第6〜8番)、そしてピアノソナタop.31の3曲など、

そんな不安を感じさせない、明朗活発で、時にユーモアを交えた、覇気漲る作品が次々と創造されています。


今日エントリーするop.31-1(=ピアノソナタ第16番)は、

「テンペスト」「狩」の愛称を持つ他の2曲と比べると、それほど知られてはいませんが、

中期の様式へと変化していく過程での、重要な存在感を示す作品と言われています。


ブレンデルの演奏は、前述したこの時期の作品の特長をいかんなく発揮した名演。

20世紀を代表する大ピアニストの演奏でも、時に退屈に感じられる第2、3楽章から、

多彩な表現を引き出した解釈の見事さは、特筆に値するものではないでしょうか。


第1楽章:Allegro vivace

どこか突っかかるようなぎこちなさをイメージする第1主題は、16分音符一つ分の弱拍をもつことによる効果のようです。

対する第2主題は、流れるように加速していく、愉しく爽快なテンポ感!

2つの主題が絡み合いながら展開していく第1楽章は、若きベートーヴェンの持つ快活さやユーモアに溢れたものです。


第2楽章:Adagio grazioso

楽しく、他愛ないお喋りが延々と続くようで、しかし決して飽きさせないこの演奏は、

微妙に長さが伸び縮みする特徴的なトリルや、音色の変化によって、

まるで変奏曲を聴くような面白さ!

その若々しい瑞々しさに惹き込まれまていきます。


第3楽章:Rondo、Allegretto

このロンド楽章も、前楽章と同じように、変奏曲を聴くように表情が千変万化していきます。

単なる練習曲のように感じる演奏が多い中、

解釈によって、ここまで愛らしく、且つ聴き応えのある演奏も可能だということを、身にしみて感じた名演!

彼のベートーヴェンは、曲ごとの性格の違いが見事に描き分けられたもの。

特に比較的演奏される機会が少ない曲ほど、その真価を際立たせてくれるように思います!

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