シューベルトの作品の中でも、即興曲op.90&op.142とソナタ21番は、LP時代から愛聴していた大好きな曲でした。
とりわけこの曲は、様々なピアニストによる演奏を聴き、それぞれの演奏に深い感銘を受けたものでしたが、
LPで聴いたリヒテルのロマン的な色彩の濃いデモーニッシュな演奏は、とりわけ強く印象に残っています。
リヒテル盤を最後に聴いたのは、13〜4年前に一度行っただけの、大阪帝塚山の『O』という、クラシックを専門に聴かせてくれるバーでのこと。
時間が早く、客は私一人でしたので、ママさんから「お好きな曲がありましたら…」と訊かれ、
「お任せします!」と言うと、
しばらく思案された後に、スピーカーからこの曲・演奏が流れてきました。
その前に二言三言音楽の話をしただけなのに、客の好みを推察できる能力に、「さすがプロだなぁ!」と感心しつつ、
私の大好きな曲であり、演奏であることを伝えた時のママさんの嬉しそうな顔!
再訪したいと願いつつ、結局行けないままに軽井沢に転居してしまいましたが、今も変わらずに、続けておられるのでしょうか。
第1楽章:Molto moderato
深い抒情を湛えつつ、感慨深げに第1主題がゆったりと開始されますが、
すぐに遠雷を思わせる低音のトリルによって流れが中断、不吉な予兆が漂いますが、
すぐに気を取り直して、焦がれるような憧れに満ちた歩みが開始されます。
この第1主題でのリヒテルの演奏は、
病にさいなまれ、いくばくもない余命を察知しつつ、
孤独の中で救いを求めるシューベルト最晩年の心境を表現した、素晴らしいもの。
憧れに満ちた主旋律が、愉しげに高らかに奏されるために、より悲痛さが強まります。
第2楽章:Andante sostenuto
とぼとぼとした足取りで荒野を漂泊するような、寂寥とした主部。強弱の切り替えが、激しく揺れる心の動きを表現しうているのでしょうか。
中間部では、ふと気を取り直して…、悲痛な楽章です。
第3楽章:Scherzo、Allegro vivace con delicatezza
スケルツォのテンポで奏されるデリケートな情感を湛えた音楽は、「淀みに浮かぶ泡沫」のような、儚さが感じられます。
トリオ部では、楽しかった想い出を振り返るような懐かしさが…。
第4楽章:Allegro non troppo
熱い情熱で突っ走るような終楽章!
加速されていくテンポは、苦しみから一時も早く逃れようとするよううな、悲痛さが滲み出ているようです…。
余談ですが、嘗てポリーニが、大阪フェスティバルHでの公演でこの曲を弾きましたが、
彼が3楽章から4楽章にかけて間髪を置かず演奏した時に、初めて終楽章の持つ悲痛な内容が理解出来たように思ったものでした!