異国の地で母を亡くしたモーツァルトの、失意や悲しみが反映された作品といわれています。
しかしこれと同時期に書かれたとされるニ長調ソナタ(K.306)は、
対照的に、明るく華やかな雰囲気が横溢した作品。
希望を抱きつつパリへとやって来たモーツァルトでしたが、
思うような職は見つからず、
最愛の母までをも異国の地で亡くし、
その年の9月には、失意のうちにパリを去ることになります。
そんな境遇に置かれた彼が、どうしてこのような明るく華麗な作品を生みだすことができるのでしょう?
今日エントリーするのは、パールマン(Vn)とバレンボイム(Pf)による演奏。
実は、この演奏を聴くまでは、取るに足らない曲だと思っていたのですが、
一聴してそんな印象は払拭!
初めて昇華されたかのような美しさ、楽しさに心を惹かれました。
第1楽章:Allegro con spirit
ヴァイオリンとピアノが、時に饒舌に、時に囁き合うように、仲睦まじく曲は展開されていきます。
ヴァイオリンの艶やかな音色が印象的!
第2楽章:Andantino cantabile
寡黙な愛らしさが感じられる、両者のやり取り。
途中、威嚇するようなピアノに対し、打ち震えるように応じるヴァイオリンの可憐さ!
バレンボイムの奏でるピアノの、繊細で清らかな表情もさることながら、
パールマンの奏でるヴァイオリンの音色は、どこまでも伸びやかで滑らか!
まるで蒼穹へと吸いこまれていくような、美しさが感じられます…。
第3楽章:Allegretto
二つの楽器が歌い交わす、上機嫌の音楽。
聴き手の気分が浮き立つ楽しさや、コケティッシュな魅力、茶目っ気たっぷりの表情…
聴衆を喜ばすためとは言え、最愛の母の死から1か月も経たないうちに、こんなに愛らしく、ウイットに富んだ音楽を書いたモーツァルト!
超一流のエンタテナーと評するのは、大作曲家に対して知れませんが、
この演奏から伝わってくる昇華された美しさや楽しさは、そんな徹底したプロ根性から生み出されたもののように感じられるのです。