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F.ショパン:ピアノソナタ第2番『葬送』 

エフゲニー・キーシン(ピアノ)


元来、ピアノソナタとして構想されていたのかどうかは分かりませんが、第2番の第3楽章「葬送行進曲」は、1837年に既に完成されていました。

この時期、持病の肺結核が悪化して、それが原因でマリア・ヴェジンスキとの婚約が破棄されており、

怒りや絶望から自暴自棄に陥り、そんな心境が曲に込められたと考えても、まんざら的外れではないかと思います。


翌年の1838年からは、サンドとの交際が始まり、

マジョルカ島での療養生活を経て、1839年の夏にサンドの父方の実家があるフランスのノアンという村で過ごしました。

パリでの複雑な人間関係から解放されたショパンは、この地で作曲に没頭、

そのことによって、彼の芸術は、ますます深みを増したと言われています。


ピアノソナタ第2番の第1、2、4楽章は、最初の年に作曲されたもの。

恵まれた環境の下で、彼の健康も回復の兆しがみられ、

嘗ての屈辱的な時期に書かれた曲を第3楽章に置くソナタを作れるような、

そんな精神的なゆとりが、芽生え始めたということなのでしょう…。


ショパンは、作曲上の形式に縛られることを嫌っていたために、彼のソナタは、楽章間の統一性に難があると言われています。

今日エントリーするキーシンの演奏は、劇的な物語性を前面に押し出した印象が、強く感じられるもの。

そのために、各楽章ともにショパン特有の閃きが感じられれつつも、全4楽章を通しての一貫した流れが保たれています!


第1楽章:Grave-Doppio movimento(2倍の速さで)

重苦しく、苦悩に喘ぐような冒頭部に続き、

全ての物をぶっ壊すように激情的な第1主題と、

対照的に、コラール風の清純で夢見るように美しい第2主題。

キーシンの醸す激情には、ただただ息を呑むばかりです!


第2楽章:Scherzo、Presto ma non troppo

前楽章から続いて、収まることのない激情。

途中には民族的な舞曲が挿入されているのか、幻想的にも聴こえます…。

一転してノクターンのような麗しさが感じられるトリオ部。

この楽章でも、主部の圧倒的な激情が支配するために、

トリオ部の慰めは、一場の春夢と化してしまいます…。


第3楽章:March funebre、Lento attacca

キーシンの演奏では、怒りに震えるような重々しい足取りで開始され、

力なく弱々しい足取りで去っていく趣が…。

トリオ部の、悲痛な慰めを感じさせる美しい旋律も印象的!


第4楽章:Finale、Presto

旋律もなければ、感情すらも聴き取れず、謎のように終わってしまう終楽章…。

虚無の表現なのでしょうか…。演奏終了後の余韻によって、聴き手のインスピレーションを掻き立てるものなのかもしれませんが…。

キーシンのこの演奏を会場で聴き、聴衆の拍手が制止された中で、その余韻を味わいたいものだと思いました。

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