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F,シューベルト:アルペジョーネ・ソナタ D821 

M.マイスキー(チェロ)  ダリア・オヴォラ(ピアノ)


アルペジョーネとは、1823〜4年にウィーンのギター製造者によって発明されたもので、

胴がギターに似ていて、

チェロ小ぶりにしたような、

弓を用いて演奏する6弦の楽器。

この曲は1824年、勿論この新しい楽器の為に作曲されたものでしたが、

楽譜が出版されたのは、シューベルトの死後40年以上が経過した1871年。

その頃には、既にこの楽器は廃れていたために、アルペジョーネによって演奏される機会はなかったそうですか、

これに替えて、チェロやヴィオラで代用されることによって、幅広く知られるようになりました。

この曲を書いた当時のシューベルトは、金銭的に恵まれず、その上健康上の不安を抱えて、心身ともにる大きな危機を迎えていました。

親しみやすい優しい旋律であるにもかかわらず、曲の底辺に、そこはかとなく不安感や寂寥感が漂よっているのは、そんな理由によるのでしょうか…。


マイスキーのチェロと、ダリア・オヴォラという女性ピアニストによる、シューベルトの良く知られた歌曲を集めた“Songs without Words”というアルバムに収録されている演奏をエントリーします。

密やかに、しかし思いの丈を込めて歌われるマイスキーのチェロの響きが、この曲にピッタリだと思えるからです。


第1楽章:Allegro moderato

ピアノを引き継いで、チェロの奏する第1主題の密やかな美しさ!

即興的で、テンポの変動の大きい演奏だと思うのですが、

フォルテ部分では激情に駆られることなく、

ピアノ部分では決してナルシシズムニ陥ることのない演奏からは、

心に閉じ込められた思いが、ふと口を吐くような、そんな趣が感じられるのです!


第2楽章:Adagio-

焦がれるような心情を静かに吐露するように、しみじみと紡ぎだされていく旋律の美しさ!

ひとときの安らぎに包まれながら、しばしノスタルジーに耽るような、

そんな思いが抱ける美しい楽章であり、演奏だと思います。


第3楽章:Allegretto

快活なテンぽで奏されるチェロの響きから、不安や悲しみが突きあげてくるこの楽章。

テンポを即興的に揺らしながらも、抑制された表現を貫くマイスキーのチェロからは、

時に、束の間の安らぎが聴き取れるようにも感じられます。

シューベルトの歌曲の延長として捉えたのであろうこの演奏、興味深く、そしてしみじみとした感慨を抱きながら聴くことができました!

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