最近聴いたCD

P.I.チャイコフスキー:
バレー音楽『くるみ割り人形』(全曲) 

V.ゲルギエフ指揮  キーロフ歌劇場管弦楽団


申すまでもなく、チャイコフスキ―が書いた三大バレー音楽の一つ。

少女クララが、クリスマス・イヴの夜に見た夢の中での出来事を描いた、ファンタジックなバレー音楽です…。


幻想文学の奇才と言われたホフマン(独:1776-1822)の小説「くるみ割り人形と二十日鼠の王様」を、

「モンテクリスト伯(岩窟王)」「ダルタニャン物語(三銃士等)」などの作者アレクサンドル・デュマ(仏:1802-1870)がフランス語に翻訳・改訂した作品から、

フランス人振付師マリウス・プティバがバレーの台本を作成し、

それを基にして。チャイコフスキーが曲を付けたもの。

尚、バレーの内容は、ホフマンの原作とはかなり異なるようですが、それについては不案内なものですから、ここでは触れないことにします。


この曲は、中学生の頃にアンセルメの指揮する組曲を聴いたのが最初でした。

若い頃、ひたすら重厚長大路線を突っ走っていた私には、多少物足りなさを感じつつも、

爾来、数人の指揮者の演奏で、親しんではきましたが、

バレー全曲を初めて聴いたのは、今日エントリーするゲルギエフ盤が初めでした…。


第1幕の二十日鼠の大群vsくるみ割り人形率いる人形達との戦争など、スリリングでドラマティック。

物語性も明確で、曲だけを聴いていても、十分に楽しめる内容だと感じました。

しかし、とりわけ素晴らしいと感じたのは、第1幕の第2場、

鼠軍との戦いで、クララの投げたスリッパによって窮地を救われ、凛々しい王子の姿に戻った「くるみ割り人形」が、

クララを誘ってお菓子の国へと向かう場面。

松林の中を歩く二人に、雪の精が現われて歓迎する“snow flakeの踊り”。

組曲版では一度も耳にしたことがなかった、曲の流れの中で聴く神秘的で清らかな響き、

とりわけ女声コーラスの澄み切った響きの効果的なこと!

家庭で過ごすイブの夜のファンタジックな雰囲気を醸すには、最高の音楽ではないでしょうか。


第2幕は、もっぱらお菓子の国での楽しいひとときが描かれており、

組曲でもお馴染みの、チョコレート(スペイン)、コーヒー(アラビア)、お茶(中国)、トレパック(ロシア)、金平糖などの踊りが登場します。

それぞれの特徴を鮮やかに描き分けた演奏もある中で、やや一本調子の感は否めませんが、

それでもトレパックでのめくるめくような推進力等は、一聴の価値あり。


全曲演奏には、通常100分程度を要するとされるこの曲ですが、ゲルギエフ盤ではノー・カットで81分。

物語性という点で、簡潔で引き締まったこの演奏!

私にとっては、退屈することなく、楽しいひとときを過ごさせてくれるものでした…。

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