原作のグリム童話集では、飢饉による生活困窮の為に、口減らしの目的で子供を捨てる、という内容のもので、残虐な場面も多々描かれているようですが、
歌劇の内容は、あくまでも子供向けに改編され、メルヘンの世界に誘うもの。
世界各国、特にドイツ語圏では、クリスマスの頃に劇場で上演される機会が多い作品です。
序曲は大変に有名で、多くの指揮者が、オムニバスな「序曲集」にしばしば採り上げている、親しみやすい曲。
オペラのストーリーに登場する様々な動機が使われているために、序曲を聴くだけで、内容はほぼ俯瞰できますが、
私は冒頭にホルンで奏される「眠りの動機」を初めて聴いた時、
日本の唱歌「ペチカ」(北原白秋作詞・山田耕筰作曲)の冒頭2小節を思い浮かべ、懐かしく暖かい気持に包まれたものでしたが、
今もそんな感慨に変わりはありません。
第1幕は、母親から言い付けられた手伝いをせずに、遊びに夢中になっていたヘンゼルとグレーテルの兄妹は、罰として森へイチゴ摘みに出かけたのですが、
暗くなっても戻って来ないために、森に住む魔法使いにさらわれたのではないかと、両親が心配し始めるという展開。
ドイツの深い森に囲まれ、穏やかに暮らす人々の生活や(何も知らずに帰宅するお父さんの、陽気な歌声!)、
そんな平和な生活の中に訪れたちょっとしたトラブルが、淡々とした口調で語られていく、そんな趣の音楽です。
第2幕は、森の中で無邪気に眠ってしまった兄妹の様子を、眠りの精(サンドマン)や天使たちを登場させることによって、ファンタジーの世界へと誘われていきます。
カッコウの鳴き声が響く静けさに包まれた森の情景、
眠りへと誘う夢の精の歌、上手いなぁ!と思ったら、B.ボニーの声でした、
前述した「眠りのテーマ」の合唱は、愛らしさの極み!シュターツカペレ・ドレスデンの弦の、羽毛の肌触りを思わせる、心地良く軽やかな擦れ感、
木管やホルンのしなやかで素朴な音色!
爽やかなメルヘンの世界が、たくまずして描かれていきます。
第3幕は、魔女に囚われた二人が、知恵を働かせて魔女を退治し、囚われていた子供たちをも助け出して、無事両親と再会します。
ここでは、魔女役を演じるルートヴィッヒの歌唱が秀逸!
ちょっと大げさな身振りで、しかしあくまでもメルヘン的な絶妙の語り口は、物語としての面白さがいや増し、聴き手の心を惹きつけるもの。
お菓子の家を見つけた二人の喜々とした表情や、
魔女を退治した後、大団円に至る晴れやかな盛り上がりなど、
聴きどころ満載の素晴らしい演奏だと思いました!、