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エンゲルベルト・フンパーディンク:
歌劇『ヘンゼルとグレーテル』(全曲)

A.マレー(ヘンゼル)  E.グルベローヴァ(グレーテル)
B.ボニー(夢の精)  C.ルードヴィヒ(魔女)他
C.デーヴィス指揮  シュターツカペレ・ドレスデン


フンパーディンク(独:1854-1921)が1893年に作曲し、今日でもしばしば上演されている、数少ないメルヘン・オペラの傑作。

原作のグリム童話集では、飢饉による生活困窮の為に、口減らしの目的で子供を捨てる、という内容のもので、残虐な場面も多々描かれているようですが、

歌劇の内容は、あくまでも子供向けに改編され、メルヘンの世界に誘うもの。

世界各国、特にドイツ語圏では、クリスマスの頃に劇場で上演される機会が多い作品です。


序曲は大変に有名で、多くの指揮者が、オムニバスな「序曲集」にしばしば採り上げている、親しみやすい曲。

オペラのストーリーに登場する様々な動機が使われているために、序曲を聴くだけで、内容はほぼ俯瞰できますが、

私は冒頭にホルンで奏される「眠りの動機」を初めて聴いた時、

日本の唱歌「ペチカ」(北原白秋作詞・山田耕筰作曲)の冒頭2小節を思い浮かべ、懐かしく暖かい気持に包まれたものでしたが、

今もそんな感慨に変わりはありません。


第1幕は、母親から言い付けられた手伝いをせずに、遊びに夢中になっていたヘンゼルとグレーテルの兄妹は、罰として森へイチゴ摘みに出かけたのですが、

暗くなっても戻って来ないために、森に住む魔法使いにさらわれたのではないかと、両親が心配し始めるという展開。

ドイツの深い森に囲まれ、穏やかに暮らす人々の生活や(何も知らずに帰宅するお父さんの、陽気な歌声!)、

そんな平和な生活の中に訪れたちょっとしたトラブルが、淡々とした口調で語られていく、そんな趣の音楽です。


第2幕は、森の中で無邪気に眠ってしまった兄妹の様子を、眠りの精(サンドマン)や天使たちを登場させることによって、ファンタジーの世界へと誘われていきます。

カッコウの鳴き声が響く静けさに包まれた森の情景、

眠りへと誘う夢の精の歌、上手いなぁ!と思ったら、B.ボニーの声でした、

前述した「眠りのテーマ」の合唱は、愛らしさの極み!シュターツカペレ・ドレスデンの弦の、羽毛の肌触りを思わせる、心地良く軽やかな擦れ感、

木管やホルンのしなやかで素朴な音色!

爽やかなメルヘンの世界が、たくまずして描かれていきます。


第3幕は、魔女に囚われた二人が、知恵を働かせて魔女を退治し、囚われていた子供たちをも助け出して、無事両親と再会します。

ここでは、魔女役を演じるルートヴィッヒの歌唱が秀逸!

ちょっと大げさな身振りで、しかしあくまでもメルヘン的な絶妙の語り口は、物語としての面白さがいや増し、聴き手の心を惹きつけるもの。

お菓子の家を見つけた二人の喜々とした表情や、

魔女を退治した後、大団円に至る晴れやかな盛り上がりなど、

聴きどころ満載の素晴らしい演奏だと思いました!、

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