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武満 徹:『ノスタルジア』(A.タルコフスキーへ追憶) 

Rudolf Werthen指揮  I Flamminghi


武満徹は、若い頃から大の映画ファンで、暇を見つけては映画館に出かけていたらしく、年間に300本以上を観たこともあったとか(映画監督:篠田正浩談)。

それだけでなく、彼自身も生涯に100本近くの日本映画に曲を付けています。

そんな彼が、旧ソ連の映画監督タルコフスキー(1932-86)の死を悼んで作曲したのが、ヴァイオリンと弦楽合奏の為の『ノスタルジア』。

曲名は、1983年に製作され、カンヌ映画祭・創造大賞を受賞した、タルコフスキーの同名映画から採られています。

彼の映像には、水、光、霧、闇、火などの、深く淡い色彩感が効果的に表現されており、武満はそんな映像の美しさに魅せられていたと言われています。


エントリーする演奏は、ベルギー生まれのRudolf Werthenが、フランダース地方に自ら創設したI Flamminghiを指揮しての演奏。

ゆったりとした呼吸で空間に放たれる弦の響きは、

静謐さのなかに漲る森羅万象から放たれた気配を感じさせる、いかにも武満ワールドといった趣のもの。

録音(TELARC CD-80469)も素晴らしく、コンサートホールの空間に拡がり、漂う弦の繊細な響きが、見事に捉えられていると思います。


弦楽合奏による、朝靄に包まれたようなゆったりとした大気の揺らぎと、その中から湧き出でるような、ソロ・ヴァイオリンの孤独な響き!

逝きし人への想いと、悲しみの深さが痛切に感じられる、大変に印象的な冒頭部です。

様々な想い出を表現するような細分化された弦楽合奏は、決して激情に走ることなく、

時に蠱惑的とも思える甘美さ漂わせるために、一層悲しみが深まるように感じられます…。

時に闇の中で明滅するように、時に空間に漂うソロ・ヴァイオリンの孤独な響き…。

エンディングは、悲しみが昇華されていくような、寂寥とした美しさ!

素晴らしい演奏です!

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